バレット食道(胸焼け・ムカムカ・みぞおちの痛み)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

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バレット食道

バレット食道(胸焼け・ムカムカ・みぞおちの痛み)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

サマリー(時間がない方はこちらをどうぞ)

バレット食道は、食道の粘膜が長期間にわたって胃酸や十二指腸液の逆流にさらされ続けた結果、本来の食道の細胞(扁平上皮)が、胃や腸の細胞(円柱上皮)に置き換わってしまった状態を指します。逆流性食道炎(GERD)の慢性的な終着点ともいえる病態です。バレット食道そのものが特定の症状を引き起こすわけではありませんが、背景にある胃酸の逆流による胸やけや、呑酸(酸っぱい液が上がってくる感覚)を伴うことが多くみられます。

医学的にこの状態が極めて重要視される最大の理由は、置き換わった粘膜(バレット粘膜)が、将来的に悪性度の高い「バレット食道腺がん」を発生させる強力な前がん病変(がんになる一歩手前の状態)となるためです。一度変化してしまった粘膜を薬で完全に元の状態に戻すことはできないため、強力な胃酸分泌抑制薬による逆流のコントロールをおこないつつ、定期的な大腸内視鏡検査(胃カメラ)によって、がんの芽を極めて早期の段階で発見することが、命を守るための絶対的な基本戦略となります。

症状について

バレット食道という「粘膜の変化」そのものが痛覚や不快感を生み出すことはありません。そのため、バレット食道特有の症状というものは存在しません。

患者さんが自覚する症状の多くは、バレット食道を引き起こす原因となっている「胃食道逆流症(GERD)」によるものです。

・胸やけ(心窩部灼熱感):みぞおちから胸骨の裏側にかけて、ヒリヒリと焼けるような感覚が持続します。

・呑酸(どんさん):胃酸や苦い胆汁が喉元まで逆流してくる不快感です。

・つかえ感・嚥下困難:バレット粘膜を背景にがんが発生し、それが大きくなって食道の内腔を狭くした場合や、長年の炎症で食道が硬く狭窄(きょうさく)した場合に、食べ物が胸につかえる感覚があらわれます。これは病状が進行している可能性を示す極めて重要なサインです。

一方で、高齢者などでは知覚が低下し、胃酸が逆流していても全く症状を感じない「無症候性バレット食道」のケースも多々存在するため、症状の有無だけで病態の進行を推し量ることはできません。

病気の概要

食道と胃は、細胞のレベルで明確に構造が異なります。

食道の表面は、熱いものや硬い食べ物の摩擦に耐えられるよう、皮膚と同じように何層にも重なった丈夫な「重層扁平上皮」という白っぽい粘膜で覆われています。一方、胃の表面は、強い胃酸や消化酵素を分泌し、かつそれに耐える機能を持つ「円柱上皮」という赤みを帯びた粘膜で覆われています。

通常、この2つの粘膜の境界線(扁平上皮・円柱上皮接合部:SCJ)は、解剖学的な食道と胃の境界(食道胃接合部:EGJ)と一致しています。しかし、胃酸の逆流が慢性的に続くと、食道下部の扁平上皮は酸の刺激によって破壊(ただれ・びらん)されます。この破壊と再生のサイクルが何年も繰り返されるうちに、体は酸に対する防御反応として、食道の傷跡を「酸に強い胃や腸と同じ円柱上皮」で覆って修復しようとします。この細胞の性質の劇的な変化(化生)によって形成された赤い粘膜領域を「バレット食道」と定義します。

病気の特徴

バレット食道は、粘膜が変化している長さ(範囲)によって大きく2つのタイプに分類され、これががん化のリスクを評価するうえで重要な指標となります。

 

  1. SSBEShort Segment Barrett’s Esophagus:ショートセグメント)

バレット粘膜の長さが3センチ未満の短いものを指します。日本人のバレット食道の圧倒的多数(9割以上)がこのタイプです。がん化のリスクはゼロではありませんが、後述のLSBEと比較すると相対的に低いと考えられています。

  1. LSBELong Segment Barrett’s Esophagus:ロングセグメント)

バレット粘膜が全周性に3センチ以上連続して広がっているものを指します。欧米人に多くみられますが、近年は食生活の変化やピロリ菌感染率の低下に伴い、日本でも増加傾向にあります。SSBEと比較して、バレット食道腺がんを発生するリスクが著しく高いことが統計的に証明されており、より厳重なサーベイランス(監視)が求められます。

 

本来の食道がんの多くは、飲酒や喫煙を原因として扁平上皮から発生する「扁平上皮がん」ですが、バレット食道から発生するがんは、胃や腸のがんと同じ性質を持つ「腺がん」です。バレット食道腺がんは、周囲のリンパ節や臓器に転移しやすく、進行が早いという極めて厄介な生物学的特性を持っています。

原因・背景

バレット食道の形成には、食道への物理的および化学的な逆流ストレスを持続させる複数の要因が複雑に絡み合っています。

 

  1. 食道裂孔ヘルニアとLES機能不全

食道と胃の境界には、胃酸の逆流を防ぐための筋肉のバルブ(下部食道括約筋:LES)があります。加齢によってこの筋肉が緩んだり、胃の一部が横隔膜を越えて胸の側に滑り出す「食道裂孔ヘルニア」という解剖学的な異常があったりすると、防波堤が壊れた状態となり、胃液が際限なく食道へ逆流します。

  1. 胃酸の分泌増加とピロリ菌の減少

かつての日本人はピロリ菌感染による萎縮性胃炎が多く、胃酸の分泌が少ない状態でした。しかし、衛生環境の改善と除菌治療の普及により、健康で胃酸を豊富に分泌できる(酸分泌能の高い)胃を持つ人が劇的に増加しました。これが、欧米型の病気であったバレット食道が日本で急増している最大の背景です。

  1. 生活習慣・体型

肥満による内臓脂肪の増加は、お腹の圧力(腹圧)を常に高く保ち、物理的に胃を押し潰して逆流を助長します。また、高脂肪食は胃酸の分泌を促すとともにLESを緩めるホルモンを分泌させます。さらに、喫煙(タバコ)や過度なアルコール摂取は、食道粘膜の防御機能を著しく低下させ、細胞の遺伝子変異(がん化)を強力に促進する独立した危険因子です。

検査で分かること

バレット食道の診断、長さの測定、および早期がんの発見には、高度な技術を用いた上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が不可欠です。

 

・通常観察による解剖学的評価

まず、食道の下部を走る「柵状血管(さくじょうけっかん)」の下端を基準として、本来の食道と胃の境界(EGJ)を正確に同定します。その境界よりも口側(食道側)に、円柱上皮(赤い粘膜)がどれくらい入り込んでいるかを観察します。病変の広がりを国際的に統一して評価するため、全周性に広がっている長さ(C)と、最も長く舌状に伸びている長さ(M)を測定する「プラハ(PragueC&M分類」が用いられます。

・特殊光観察(NBI/BLI/LCI)ならびに拡大内視鏡観察

バレット粘膜の中から、平坦で目立たない「早期がん」を発見するための最も強力な武器です。特定の波長の光(NBIなど)を当て、さらに粘膜を数十倍に拡大して観察することで、表面の微細な細胞の模様(ピットパターン)や、がん特有の異常で不規則な毛細血管の増生がないかをミリ単位で精緻に評価します。

・病理組織検査(生検)

がんが疑われる部位、あるいは粘膜の異型(細胞の顔つきの異常)が疑われる部位から組織を採取し、顕微鏡で確定診断をおこないます。

治療方針について

バレット食道そのものを「元の扁平上皮に戻す」ことを目的とした薬は存在しません。治療の絶対的な目標は、「逆流によるさらなる粘膜の破壊を防ぐこと」および「発生したがんを早期に発見・切除すること」の二本柱となります。

 

  1. 強力な胃酸分泌抑制療法(薬物療法)

胃酸の分泌を根元からブロックする強力な薬(PPIや、さらに効果の早いP-CAB)を内服し、食道内を中性に保ちます。これにより胸やけなどの症状を改善し、粘膜の炎症を鎮めることで、バレット食道のさらなる進行や、発がんを促進する環境を遮断します。自己判断での休薬は高確率で逆流の再燃を招くため、医師の指示に基づく長期的なコントロールが必要です。

  1. 生活習慣の改善

肥満の解消(減量)、食後すぐに横にならないこと、就寝時に上半身をわずかに高くすること、脂肪分やアルコール、香辛料などの摂取を控えること、あらかじめお腹を過度に締め付ける衣服を避けることなど、物理的な逆流を防ぐための生活指導を並行しておこないます。

    よくある質問(Q&A)

    Q.バレット食道と言われましたが、これは「がん」ですか?

    A.いいえ、バレット食道そのものは「がん」ではありません。胃酸の逆流に適応しようとして、食道の細胞が胃や腸の細胞に変化した「状態」のことです。しかし、そこから将来的にがん(腺がん)が発生するリスクが通常よりも高いため、「がんになる手前の要注意な状態(前がん病変)」として位置づけられています。

     

    Q.薬を飲んだり、生活を改善したりすれば、バレット食道は治りますか?

    A.一度変化してしまった円柱上皮(バレット粘膜)が、完全に元の扁平上皮(通常の食道粘膜)に戻ることは、現在の医学的な治療では極めて困難と考えられています。治療の目的は「元に戻すこと」ではなく、「これ以上長さを広げないこと」と「発がんのリスクを抑え込むこと」になります。

     

    Q.症状が全くないのに、バレット食道と診断されました。治療は必要ですか?

    A.症状がなくても、食道裂孔ヘルニアなどがあり、無自覚のまま胃酸が逆流しているケースです。症状がないからといってがん化のリスクがないわけではありません。バレット食道の長さ(SSBELSBEか)や、炎症の程度に応じて、医師と相談のうえで胃酸を抑える薬の開始を検討し、年単位での定期的な内視鏡検査を継続していただくことが極めて重要です。

    受診の目安

    「週に何度も胸やけがする」「酸っぱい水が喉まで上がってくる」「夜間に咳き込んで目が覚める」といった胃食道逆流症の症状が慢性的に続いている方は、すでに食道粘膜の破壊とバレット食道の形成が進行している可能性が極めて高いため、一度必ず消化器内科を受診し、胃カメラによる客観的な評価をうけてください。

    特に、これまでにバレット食道を指摘されたことがある方で、「最近、食べ物が胸の奥でつかえる感じがする」「飲み込むときに痛みがある(嚥下時痛)」「ダイエットをしていないのに体重が急激に減っている」といった症状があらわれた場合は、バレット食道腺がんが進行していることを強く疑うべき極めて危険なサイン(警告症状)です。手遅れになる前に、直ちに精密検査が可能な医療機関を受診する必要があります。