急性食道炎(胸焼け・のどのつかえ・飲み込みにくい)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

ヘッダー画像

急性食道炎

急性食道炎(胸焼け・のどのつかえ・飲み込みにくい)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

サマリー(時間がない方はこちらをどうぞ)

急性食道炎は、口から胃へと食べ物を運ぶ管である「食道」の粘膜に、急激な炎症や物理的・化学的な組織障害が生じる病態の総称です。長期間の胃酸逆流によって起こる慢性の「逆流性食道炎」とは異なり、細菌やウイルスなどの「感染」、内服した錠剤が食道に留まって溶け出す「薬剤起因性」、あるいは誤飲などによる「腐食性」といった、明確かつ急性の外因性・内因性ストレスが直接の引き金となります。

主な症状として、食べ物を飲み込む際の激しい胸の痛み(嚥下時痛)や、何かが胸につかえる感覚(嚥下困難)、食事とは無関係な胸骨の裏側の痛みなどがあらわれます。食道は酸や化学物質、ウイルスに対する防御機能が弱いため、原因物質にさらされると短時間で粘膜がえぐれ、深い潰瘍を形成します。命に関わる重篤な合併症(食道穿孔や大出血など)を防ぐため、症状があらわれた場合は速やかに内視鏡検査による原因の特定と、それぞれの病因に応じた的確な治療を開始する必要があります。

症状について

急性食道炎の症状は、食道の粘膜に急激な物理的・化学的ダメージが加わることで引き起こされるため、痛覚を伴う鋭い症状が特徴です。

 

・嚥下時痛(飲み込むときの痛み):急性食道炎で最も特徴的かつ頻度の高い症状です。水や食べ物を飲み込んで食道を通過する瞬間に、胸の奥(胸骨の裏側)や背中に突き抜けるような鋭い痛みが走ります。

・嚥下困難(飲み込みにくさ):炎症によって食道の粘膜が腫れ上がり、内腔が狭くなることで、食べ物が胸につかえる感覚が生じます。痛みを避けるために無意識に食事を控えてしまい、脱水や栄養不足に陥ることがあります。

・胸痛(胸骨後部痛):食事をしていない安静時であっても、胸の真ん中に締め付けられるような、あるいは焼けるような持続的な痛みを感じることがあります。狭心症などの心疾患と間違われるほどの激しい痛みとなるケースも存在します。

・吐血・下血:深い潰瘍が形成され、食道の壁の中を走る血管が破綻すると、鮮血を嘔吐したり、血液が胃や腸を通過して黒いタール状の便(黒色便)として排出されたりします。

病気の概要

食道は、咽頭から胃をつなぐ約25センチメートルの管状臓器です。表面は摩擦に強い「重層扁平上皮(じゅうそうへんぺいじょうひ)」という粘膜で覆われていますが、胃のような強力な粘液のバリア(防御機構)を持っていません。そのため、化学物質や病原体が直接付着すると、細胞が容易に破壊されます。

急性食道炎は、この無防備な食道粘膜に対して、急激な攻撃因子が作用することで発症します。原因によって病態生理は全く異なり、大きく「感染性食道炎」「薬剤起因性食道炎」「腐食性食道炎」「放射線食道炎」などに分類されます。いずれも、粘膜の表面が剥がれ落ちる「びらん」や、さらに深くえぐれる「潰瘍」を形成し、急性期には激しい痛みを、治癒の過程では傷跡が引きつれて食道が狭くなる「狭窄(きょうさく)」という後遺症を残すリスクをはらんでいます。

病気の特徴

最大の特性は、内視鏡(胃カメラ)で観察した際に、原因ごとに極めて特異的な粘膜の形態変化(顔つき)を示すことです。

 

・カンジダ食道炎:食道粘膜に、白くて厚い苔(白苔)が雪が降ったように多発・付着します。

・単純ヘルペスウイルス食道炎:初期には小さな水ぶくれ(水疱)ができ、それが破れて火山の火口のように中央がへこんだ「打ち抜き型潰瘍(浅い潰瘍)」が多数形成されます。

・サイトメガロウイルス食道炎:ヘルペスウイルスよりもさらに深く、大きくえぐれた「広範な不正形潰瘍」を形成します。

・薬剤起因性食道炎:薬が張り付いた局所(特に食道が解剖学的に狭くなっている大動脈弓の交差部など)に限定して、周囲が赤く腫れ上がった特徴的な「打ち抜き潰瘍」がみられます。向かい合う粘膜に左右対称に潰瘍ができること(kissing ulcer)も特徴の一つです。

原因・背景

急性食道炎の原因は、大きく以下のカテゴリーに分けられます。

 

  1. 感染性食道炎

健康な人の食道には病原体は定着しませんが、加齢、糖尿病、ステロイド薬の長期使用、抗がん剤治療、あるいはHIV感染などによって全身の「免疫力(細胞性免疫)」が低下すると、真菌(カビの一種であるカンジダ)やウイルス(単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルスなど)が食道粘膜で異常増殖して深い潰瘍を引き起こします。

 

  1. 薬剤起因性食道炎

内服した錠剤やカプセルが胃まで到達せず、食道の途中で引っかかって停留し、そこで高濃度の成分が溶け出すことで粘膜を直接化学的に焼き尽くしてしまう病態です。骨粗鬆症の治療薬(ビスホスホネート製剤)、特定の抗生物質(テトラサイクリン系など)、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)などが代表的です。コップ一杯の十分な水で飲まなかった場合や、内服してすぐに横になった場合に極めて発生しやすくなります。

 

  1. 腐食性食道炎

誤って、あるいは意図的に強酸や強アルカリの洗浄剤(トイレ用洗剤や漂白剤など)を飲み込んでしまった場合に生じます。粘膜が瞬時にドロドロに溶かされ(液化壊死や凝固壊死)、食道に穴が開く(穿孔)危険性が非常に高い、命に関わる緊急事態です。

 

  1. その他の原因

肺がんや乳がんなどの治療でおこなわれる放射線照射が食道にかかることで生じる「放射線食道炎」や、極端に熱い食べ物を飲み込んだことによる「熱傷性食道炎」なども原因となります。

検査で分かること

原因を正確に見極め、適切な治療法を選択するため、以下の検査を迅速におこないます。

 

・上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

急性食道炎の診断において不可欠な絶対的検査です。粘膜のただれ、潰瘍の深さと広がり、出血の有無を直接観察します。前述したように、原因によって潰瘍の形態が異なるため、視覚的な評価が診断の最大の鍵となります。

・病理組織検査および培養検査(生検)

感染性が疑われる場合、内視鏡を通じて粘膜の一部を採取し、顕微鏡でカンジダの菌糸やウイルスの封入体(細胞内の異常構造物)を確認します。また、組織を培養して原因となる病原体を特定し、有効な抗微生物薬を決定します。

・胸部・腹部CT検査

痛みが激しい場合や、高熱が出ている場合におこないます。食道に穴が開き(穿孔)、周囲の縦隔(心臓や肺の間の空間)に空気が漏れたり膿が溜まったりしていないか(縦隔炎)を立体的に評価し、緊急手術が必要かどうかを客観的に判断します。

治療方針について

急性食道炎の治療は、特定された原因に対する「原因療法」と、痛みを和らげて粘膜の修復を促す「保存的治療」を並行しておこないます。

 

  1. 感染性食道炎の治療

・カンジダ食道炎:抗真菌薬(抗カビ薬)の内服やシロップ剤を投与します。免疫力が正常な軽症例であれば、自然に治癒することもあります。

・ウイルス性食道炎:単純ヘルペスウイルスにはアシクロビルなどの抗ウイルス薬を、サイトメガロウイルスにはガンシクロビルなどを点滴あるいは内服で投与します。これらは免疫が極度に低下した方に発症するため、入院での厳重な全身管理が必要です。

 

  1. 薬剤起因性食道炎の治療

原因となっている内服薬を直ちに中止、あるいは水薬などに変更します。そのうえで、食道粘膜の治癒を助けるために強力な胃酸分泌抑制薬(PPIP-CAB)を投与し、胃酸の逆流による二次的なダメージを遮断します。また、数日間は固形物を避け、消化の良い流動食や点滴で食道を休ませます。

 

  1. 腐食性食道炎の治療

絶対に吐かせてはいけません(吐き出す際に再び食道を焼き、気管に入って致命的な肺炎を起こすため)。絶食・点滴管理をおこない、食道穿孔や縦隔炎を併発している場合は緊急の外科的手術(食道切除など)が必要となります。治癒後に食道が硬く狭くなる(狭窄)後遺症が高確率で残るため、後日、内視鏡によるバルーン拡張術などを繰り返しおこなう必要があります。

よくある質問(Q&A)

Q.薬を水なしで飲んで胸が痛くなりました。自然に治りますか?

A.薬剤起因性食道炎の可能性が極めて高いです。軽度であれば数日で自然に治癒することもありますが、潰瘍が深く進行すると食道に穴が開いたり、大出血を起こしたりする危険性があります。決して放置せず、直ちに内服を中止し、消化器内科で内視鏡検査をうけてください。内服の際は、必ずコップ一杯(200ml以上)の水で飲み、内服後30分は横にならないことが予防の鉄則です。

Q.カンジダ食道炎と言われましたが、人にうつりますか?

A.カンジダは真菌(カビ)の一種ですが、健康な人の皮膚や口の中にもごく普通に存在している常在菌です。健康な人に感染して食道炎を起こすことはないため、日常生活で人にうつる心配はありません。ご自身の免疫力が一時的に低下したサインとして捉え、体調管理を見直すことが重要です。

Q.逆流性食道炎とは違うのですか?

A.逆流性食道炎は、胃酸が長期間にわたってじわじわと逆流することで起こる「慢性」の炎症です。一方、急性食道炎は、薬の停留やウイルス感染など、明確な原因物質が食道を急激に攻撃して数日のうちに深い潰瘍を作る「急性」の病態です。痛みの強さや発症のスピードが大きく異なります。

受診の目安

「水や食べ物を飲み込んだ瞬間に、胸の奥や背中に突き刺さるような激しい痛みが走る」「食事のたびに胸につかえて飲み込めない」といった嚥下時痛や嚥下困難が突然あらわれた場合は、急性食道炎が強く疑われます。

特に、大きな錠剤やカプセル剤を少量の水で飲んだ直後から痛みが出た場合や、免疫力を下げる治療(ステロイドや抗がん剤など)をうけている最中にこれらの症状があらわれた場合は、病状が急速に悪化するリスクがあります。

痛みを我慢して食事や水分をとらないでいると、脱水症状を引き起こすだけでなく、潰瘍が深くなって食道穿孔などの致命的な合併症を招く恐れがあるため、症状に気づいた段階で速やかに消化器内科を受診し、客観的な診断と的確な治療を開始してください。