食道粘膜下腫瘍(のどのつかえ、飲み込みにくい)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

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食道粘膜下腫瘍

食道粘膜下腫瘍(のどのつかえ、飲み込みにくい)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

サマリー(時間がない方はこちらをどうぞ)

食道粘膜下腫瘍(SMT:Submucosal Tumor of the Esophagus)は、食道の表面を覆う粘膜よりも深い層(粘膜下層や固有筋層など)から発生し、粘膜を内側から押し上げるように盛り上がる病変の総称です。一般的な食道がんが表面の粘膜細胞から発生し、飲酒や喫煙などを原因として急速に進行するのに対し、食道粘膜下腫瘍は表面がツルツルとした正常な粘膜で保護されており、その大部分は極めてゆっくりと成長する良性の「平滑筋腫(へいかつきんしゅ)」です。

初期の段階では自覚症状が全くなく、健康診断の胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)などで偶然発見されることが大半を占めます。しかし、腫瘍が大きく成長すると、食道の内腔が物理的に狭くなり、食べ物が胸につかえる(嚥下困難)といった症状を引き起こします。食道において悪性の粘膜下腫瘍が発生することは比較的まれですが、「消化管間質腫瘍(GIST)」などの転移リスクを持つ腫瘍が隠れていることもあるため、超音波内視鏡(EUS)などの高度な検査を用いて正確に種類と深さを評価し、経過観察でよいか、内視鏡的切除や外科的手術が必要かを見極めることが極めて重要になります。

症状について

食道粘膜下腫瘍の症状は、腫瘍の「大きさ」と食道内腔への「突出の程度」に強く依存します。

1. 初期〜小サイズ時の症状(無症状)

腫瘍の大きさが1〜2センチメートル程度の段階では、食道の通り道を塞ぐには至らないため、自覚症状は全くありません。

2. 進行時の症状(通過障害と圧迫症状)

腫瘍が3〜5センチメートル以上に成長すると、物理的な通過障害があらわれます。

・嚥下困難(えんげこんなん):肉やパンなどの固形物を飲み込んだ際に、胸の奥(胸骨の裏側)に食べ物がつっかえるような感覚や、スムーズに胃に落ちていかない停滞感が生じます。さらに巨大化すると、水分でさえも通りにくくなります。

・胸骨後部痛(胸の痛み):腫瘍が食道の壁を外側へ強く押し広げることによって、食事とは無関係に持続する胸の奥の圧迫感や、鈍い痛みがあらわれることがあります。

3. 出血に伴う症状

大腸や胃の粘膜下腫瘍と比較すると頻度は低いですが、腫瘍が極端に大きくなり表面の粘膜が引き伸ばされて血流が不足し、潰瘍(粘膜のえぐれ)を形成した場合には、そこから出血を起こすことがあります。これにより、血を吐く(吐血)ことや、血液が胃腸を通過して黒いタール状の便(黒色便)が出るといった症状があらわれ、それに伴う貧血(息切れや立ちくらみ)が進行することがあります。

病気の概要

人の食道の壁は、内側から外側に向かって「粘膜上皮」「粘膜固有層」「粘膜筋板」「粘膜下層」「固有筋層」「外膜」という多層構造で成り立っています(食道には、胃や腸の最も外側にある「漿膜」が存在しません)。

「粘膜下腫瘍」という名称は特定の病名ではなく、内視鏡で見た際の「正常粘膜の下に何かが埋まっているような盛り上がり」という形態的特徴を表す総称です。実際にどのような細胞が増殖してできた腫瘍であるかによって、病態は全く異なります。

食道に発生する粘膜下腫瘍の約70〜80%は、筋肉の層(主に固有筋層や粘膜筋板)を構成する平滑筋細胞が異常増殖してできる良性腫瘍である「平滑筋腫」です。胃や大腸では脂肪腫や神経内分泌腫瘍(NET)、GISTなどが多くみられますが、食道においては平滑筋腫が圧倒的に多いという明確な臓器特異性が存在します。

その他の食道粘膜下腫瘍として、消化管の運動を司るカハール介在細胞から発生し悪性化のリスクを持つ「GIST(消化管間質腫瘍)」、末梢神経を包む細胞から発生する「神経鞘腫」や「顆粒細胞腫」、リンパ管や血管の異常な拡張である「嚢胞(のうほう)」「血管腫」などがあります。

病気の特徴

内視鏡で観察した際の形態に、粘膜下腫瘍ならではの非常に強い特徴があります。通常の食道がんは表面がザラザラしていたり、ただれて出血していたりしますが、粘膜下腫瘍は表面が周囲と同じ健康な色の粘膜で覆われた、なだらかな半球状の山のように見えます。また、腫瘍の辺縁が立ち上がり、正常な粘膜のひだが橋を架けたように引き伸ばされて見える「架橋ひだ(bridging fold)」という所見が、食道平滑筋腫の典型的なサインとして知られています。

医学的に最も警戒すべき点は、「良性の平滑筋腫」と「悪性リスクを持つGIST」が、表面からの見た目だけでは極めて区別がつきにくいという事実です。GISTは食道においては数%程度と比較的まれですが、放置すると血流に乗って肝臓などに転移したり、お腹の中に散らばったりする(播種)生物学的な悪性度を秘めているため、この2つを正確に鑑別することが診療の最大の焦点となります。

原因・背景

食道粘膜下腫瘍の大部分は、特定の細胞が偶発的に突然変異を起こして増殖したものであり、明確な原因は解明されていません。

食道がん(扁平上皮がん)の発症には過度な飲酒や喫煙が極めて強力な原因として関与しますが、食道の平滑筋腫などの良性粘膜下腫瘍においては、これらの生活習慣や食生活との直接的な因果関係は科学的に証明されていません。

一方、悪性リスクを持つGISTにおいては、c-kit遺伝子やPDGFRA遺伝子といった特定の遺伝子に変異が生じることで、細胞が増殖し続けるスイッチが常にオンの状態になってしまうことが発症の直接的な原因であることが明らかになっています。また、ごくまれなケースとして、特定の遺伝性疾患(アルポート症候群を伴うびまん性食道平滑筋腫症など)を背景として、食道全体に平滑筋腫が多発する特殊な病態も存在します。

検査で分かること

腫瘍が正常な粘膜の深い層に埋もれているため、通常の組織検査(表面を数ミリかじる生検)では細胞まで届かず、確定診断がつきません。そのため、以下の高度な画像検査を組み合わせて病態の核心に迫ります。

・上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

病変の正確な位置、大きさ、表面の粘膜の状態(潰瘍の有無など)を視覚的に評価します。鉗子(組織をつまむ器具)で腫瘍を押して硬さを確認したり、腫瘍が動くかどうかを確認したりすることで、腫瘍の性質の当たりをつけます。

・超音波内視鏡検査(EUS)

食道粘膜下腫瘍の鑑別において最も重要かつ決定的な威力を発揮する検査です。胃カメラの先端に超音波(エコー)の装置がついており、食道の壁の断層画像をミリ単位で観察します。腫瘍がどの層(第2層の粘膜筋板か、第4層の固有筋層か)から発生しているか、内部のエコーの反射が均一か不均一かを精緻に評価します。平滑筋腫とGISTはどちらも第4層から発生することが多いですが、内部構造の違いなどを客観的に捉え、悪性の可能性を評価します。

・超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)

GISTなどの悪性が疑われる場合、EUSの画像を見ながら、食道の中から腫瘍に直接細い針を突き刺し、腫瘍の細胞を確実に採取します。採取した細胞に特殊な染色(免疫組織化学染色)をおこない、c-kitタンパクなどが陽性であればGISTと確定診断します。

・造影CT・MRI検査

腫瘍が食道の壁の外側にどれくらい飛び出しているか、周囲の気管や大動脈に癒着・浸潤していないか、およびリンパ節や肝臓、肺などに転移していないか(悪性の場合)を全身的な視点から精査します。

治療方針について

食道粘膜下腫瘍の治療方針は、超音波内視鏡などで評価した「腫瘍の種類(良性か悪性か)」、「腫瘍のサイズ」、「自覚症状の有無」によって大きく3つの選択肢に分かれます。

1. 経過観察

EUSなどで「平滑筋腫」や「嚢胞」などの完全な良性腫瘍と強く推定され、かつサイズが小さく(一般的に3センチメートル未満)、食べ物のつかえなどの症状が全くない場合は、すぐに治療はおこなわず、年1回程度の定期的な内視鏡検査でサイズの増大がないかを監視する「経過観察」が基本となります。

2. 外科的手術(胸腔鏡下手術など)

腫瘍が大きく成長して嚥下困難などの症状が出ている場合、経過観察中にサイズが急速に増大した場合、あるいは細胞診でGISTなどの悪性腫瘍と診断された場合には、物理的な切除が必要となります。食道は切除すると再建が非常に大掛かりになるため、良性の平滑筋腫や小サイズのGISTであれば、食道そのものを温存し、外側から筋肉の層を切り開いて腫瘍だけを綺麗にくり抜く「腫瘍核出術(しゅようかくしゅつじゅつ)」がおこなわれます。現在は体への負担が少ない胸腔鏡を用いた手術が主流です。

3. 内視鏡的切除(STERなど)

近年、消化器内視鏡の技術が飛躍的に進歩し、口から入れた胃カメラだけで食道の筋肉層にある腫瘍を取り出す技術が確立されています。「粘膜下トンネル内視鏡的腫瘍切除術(STERSubmucosal Tunneling Endoscopic Resection)」と呼ばれる手法で、食道粘膜の下に長いトンネルを掘って腫瘍に到達し、腫瘍だけを摘出したのちに、トンネルの入り口をクリップで完全に閉鎖するという高度な治療です。体表に一切の傷がつかず、術後の回復が極めて早いという画期的な低侵襲治療であり、適応となるサイズの腫瘍に対して積極的に導入され始めています。

よくある質問(Q&A)

Q.食道がん(扁平上皮がん)とは違う病気ですか?

A.全く異なる病気です。一般的な食道がんは、食道の表面(粘膜)から発生し、飲酒や喫煙などを原因として周囲の臓器やリンパ節へ急速に浸潤・転移する極めて悪性度の高い腫瘍です。一方、食道の粘膜下腫瘍は深い筋肉の層から発生し、その大部分はゆっくりとしか成長しない良性の「平滑筋腫」です。性質も進行スピードも全く別次元の病態といえます。

Q.胃カメラのときに、普通のポリープのようにその場で切ってとれないのですか?

A.粘膜下腫瘍は深い筋肉の層(固有筋層など)にしっかりと根を張っているため、通常のポリープを切るように金属の輪(スネア)で縛り取ろうとすると、食道の壁ごと切り取ってしまい、食道に大きな穴が開く(穿孔する)危険性が極めて高くなります。食道に穴が開くと、心臓や肺がある空間(縦隔)に細菌が漏れ出し、命に関わる「縦隔炎」を引き起こすため、決して不用意に切除してはいけません。切除する場合は、STERや胸腔鏡手術など、穿孔を防ぐための特殊な環境と技術を用いた計画的な治療が不可欠です。

Q.良性の平滑筋腫と診断されましたが、将来的にがん(悪性)に変化することはありますか?

A.平滑筋腫の細胞が、時間が経つことで悪性の「平滑筋肉腫」や「GIST」に変化(悪性転化)することは、病理学的に極めてまれであると考えられています。ただし、良性であっても年単位でゆっくりとサイズが大きくなることがあり、食道を塞いで食事に支障が出た場合には切除が必要になります。そのため、良性と言われても自己判断で放置せず、医師の指示通りに定期的な胃カメラによるサイズ確認を継続していただくことが重要です。

受診の目安

食道粘膜下腫瘍は初期には自覚症状が全くないため、40歳を超えたら、症状がなくても健康診断などで定期的に胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)をうけ、早期発見の機会を作ることが基本となります。

万が一、「肉やパンなどの固形物を飲み込むと、胸の奥で引っかかる感じがする」「食事の途中で胸が詰まって苦しくなる」「食事と関係なく、胸の奥に圧迫されるような鈍い痛みが続く」といった症状があらわれた場合は、粘膜下腫瘍が大きく成長して食道を塞いでいる可能性や、あるいは進行した通常の食道がんが隠れている可能性を示す極めて重要なサインです。これらの症状がある場合は、我慢したり市販の胃薬で様子を見たりすることなく、速やかに消化器内科を受診し、詳細な内視鏡検査による客観的な評価をうけてください。