胃がん(ピロリ菌・黒い便・体重減少)|東新宿駅前こばやし消化器内科

ヘッダー画像

胃がん

胃がん(ピロリ菌・黒い便・体重減少)|東新宿駅前こばやし消化器内科

サマリー(時間がない方はこちらをどうぞ)

胃がんは、胃の壁の最も内側にある粘膜の上皮細胞が、何らかの原因で悪性細胞へと変異し、無秩序に増殖する腫瘍です。日本において極めて罹患率の高いがんであり、その最大の発生要因は「ヘリコバクター・ピロリ菌」の持続感染によって引き起こされる慢性的な萎縮性胃炎です。初期段階では自覚症状がほぼ存在せず、進行するにつれてみぞおちの痛み、食欲不振、体重減少、および吐血や下血(黒色便)といった症状があらわれます。がんが粘膜や粘膜下層にとどまる「早期胃がん」の段階で発見できれば、内視鏡治療(ESDなど)によって胃を温存したまま高い確率で根治を期待できる病態です。しかし、固有筋層より深く進行した「進行胃がん」に至ると、リンパ節や肝臓、あるいは腹膜への転移リスクが急激に上昇し、外科的手術や強力な抗がん剤を組み合わせた集学的治療が必要となります。いかに無症状の段階で内視鏡検査をおこない、早期発見につなげるかが生命予後を決定づける最大の鍵となります。

症状について

早期の段階では、胃がんそのものが引き起こす特異的な自覚症状は存在しないと考えるのが一般的です。

・早期の症状(無症状):一部の患者さんで、軽い胃もたれやみぞおちの不快感を感じることがありますが、これらは背景にある慢性胃炎や胃潰瘍に起因することが多く、胃がんの存在を直接示すサインとはなりません。

・進行期の症状(通過障害と疼痛):がんが成長して胃の運動機能が低下したり、食べ物の通過が物理的に妨げられたりすることで、食後の強いもたれ感、すぐにお腹がいっぱいになる(早期飽満感)、みぞおちの持続的な鈍痛などがあらわれます。

・出血に伴う症状:がんの表面が崩れて潰瘍化し、持続的に出血することで、吐血(鮮血やコーヒー残渣物のような血液の嘔吐)や下血(真っ黒なタール状の便)が生じます。これに伴い、動悸や息切れといった貧血症状が進行します。

・全身症状:がん細胞が全身の栄養を消費し、また食事が物理的にとれなくなることで、数ヶ月で急激な体重減少があらわれます。特にスキルス胃がんのように胃の壁全体が硬く厚くなるタイプでは、胃が膨らまなくなるため極端な食欲不振に陥ります。

病気の概要

人の胃の壁は、内側から外側に向かって「粘膜」「粘膜下層」「固有筋層」「漿膜下層」「漿膜」の5層構造をしています。胃がんは必ず最も内側の「粘膜」の細胞から発生する腺がんです。

病理学的な進行度として、がん細胞が粘膜内、あるいは粘膜下層までにとどまっている状態を「早期胃がん」と定義し、固有筋層より深い層まで入り込んでいる状態を「進行胃がん」と定義します。この分類はがんの表面的な大きさではなく「深さ(深達度)」を基準としており、層が深くなるほどリンパ管や血管のネットワークを通じた全身への転移リスクが飛躍的に高まるためです。

また、顕微鏡で見た組織型によって、細胞同士が管のような構造を保って増殖する「分化型がん(主に高齢男性に多く、ピロリ菌感染を背景とする)」と、構造を作らずバラバラに周囲の組織に浸潤していく「未分化型がん(比較的若い女性にも発生し、スキルス胃がんの原因となりやすい)」に大別されます。

病気の特徴

胃がんの生物学的な最大の特徴は、進行するにつれて3つの異なる経路で全身へ転移をきたす能力を持つことです。

1. リンパ行性転移:粘膜下層より深くに侵入したがん細胞がリンパ管に入り込み、胃の周囲のリンパ節や、さらに遠くのリンパ節へと転移を広げます。

2. 血行性転移:血管の壁を破壊して血流に入り込んだがん細胞が全身を巡り、特に血流が最初に到達する「肝臓」や、その先の「肺」「骨」などに転移して新たな腫瘍を形成します。

3. 腹膜播種:進行がんが胃の最も外側の膜(漿膜)を突き破ると、がん細胞がお腹の中の空間(腹腔内)に種をまくように散らばります。これにより腸管が癒着して腸閉塞を起こしたり、腹水が大量に溜まったりする極めて深刻な状態を引き起こします。スキルス胃がんにおいて特に高頻度でみられる転移形式です。

原因・背景

胃がんの発症メカニズムにおいて、最も強力かつ確実な危険因子は「ヘリコバクター・ピロリ菌」の持続感染です。

ピロリ菌が長年にわたって胃の粘膜に感染し続けると、粘膜が薄くなる萎縮性胃炎が進行し、やがて胃の粘膜が腸の細胞のように変化する「腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)」という状態に至ります。この慢性的な炎症と細胞再生のサイクルを繰り返す過程で、細胞の遺伝子に異常が蓄積し、がん細胞が発生する強力な前がん状態が形成されると考えられています。

その他の環境要因として、「過剰な食塩の摂取」ならびに「喫煙」が、胃粘膜への直接的な化学的ダメージや発がん物質の作用を通じて、発生リスクを単独で上昇させることが疫学的に証明されています。また、一部の胃がんにはEBウイルスの感染が関与するタイプや、特定の遺伝子変異(CDH1遺伝子など)による家族性のタイプが存在します。

検査で分かること

胃がんの確定診断、深さ(深達度)の評価、ならびに全身への転移の有無(ステージング)を調べるため、以下の画像診断および病理検査を組み合わせて客観的に評価します。

・上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)および生検

胃がんの診断において不可欠な絶対的検査です。粘膜のわずかな色調の変化(発赤や退色)、表面の微細な凹凸を直接観察します。NBIやBLIといった特殊光を用いた画像強調観察や、色素を散布する色素内視鏡検査を駆使し、がんの正確な範囲をミリ単位で診断します。がんが疑われる病変からは組織を採取(生検)し、病理組織検査で悪性細胞の存在を確定します。

・胃X線造影検査(バリウム検査)

胃の全体的な形状や、粘膜のひだの異常な集中、胃壁の進展不良を立体的に評価します。特に胃の壁全体が硬くなるスキルス胃がんの全体像を把握するために有用な場合があります。

・造影CT検査

がんが胃の壁をどれくらい深く突き破っているか、胃の周囲や遠隔のリンパ節が腫大していないか、肝臓や肺などの他臓器へ転移していないかを全身的な視点から客観的に評価します。手術ができるかどうかの治療方針を決定するための極めて重要な判断材料となります。

治療方針について

胃がんの治療は、深達度、リンパ節転移のリスク、および遠隔転移の有無(ステージ)に基づき厳密に選択されます。

1. 内視鏡的切除(ESD)

がんが粘膜層にとどまっており、リンパ節転移のリスクが極めて低いと判断される早期胃がんに対する根治的治療です。内視鏡の先端から専用の電気メスを出し、がんを含めた粘膜を広い範囲で一層剥ぎ取る「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」をおこないます。胃をそのまま温存できるため、術後の生活の質への影響が最も少ない画期的な治療法です。

2. 外科的切除(手術)

がんが粘膜下層より深くに達しており、リンパ節転移の可能性がある場合の標準治療です。がんの部位に応じて、胃の出口側を切除する「幽門側胃切除術」や、すべて摘出する「胃全摘術」がおこなわれます。同時に、転移しやすい周囲のリンパ節を切除する「リンパ節郭清」をおこない、残った胃や腸を縫い合わせて新たな消化管の通り道を作成する再建術をおこないます。近年は体への負担が少ない腹腔鏡下手術やロボット支援下手術が主流です。

3. 化学療法(抗がん剤治療)

手術でがんを取り切れた場合でも、目に見えない微小転移を根絶して再発を防ぐため、術後に半年から1年間にわたって抗がん剤を投与する「術後補助化学療法」がおこなわれます。

発見時にすでに肝臓や腹膜などへ転移があり手術による根治が困難な場合は、強力な全身化学療法がおこなわれます。あらかじめがん細胞の遺伝子やタンパク質(HER2PD-L1など)を検査し、特性に合致した分子標的薬や、免疫細胞のブレーキを解除する免疫チェックポイント阻害薬(オプジーボなど)を組み合わせて投与することで、生存期間の大幅な延長を図ります。

よくある質問(Q&A)

Q.バリウム検査で異常なしと言われましたが、胃がんの心配はありませんか?

A.バリウム検査は胃の全体的な異常を見つけるのには適していますが、粘膜表面のわずかな色の変化にとどまるような「早期胃がん」は発見が困難であり、見逃されるリスクが医学的に存在します。早期の段階で確実に見つけ出し、内視鏡治療で完治を目指すためには、直接粘膜を観察できる上部消化管内視鏡検査をうけていただくことが不可欠です。

Q.ピロリ菌の除菌をすれば、もう胃がんにはなりませんか?

A.除菌治療に成功すると、胃がんの発生リスクを有意に低下させる効果が証明されています。しかし、除菌するまでに何十年も感染が続いていた場合、すでに胃の粘膜が薄くなる萎縮性胃炎や腸上皮化生が進行しており、発がんの土台ができあがってしまっています。そのため、除菌したのちほどであっても胃がんが発生する危険性はゼロにはならず、「除菌後胃がん」として発見されるケースが存在します。生涯にわたる定期的な内視鏡検査による監視が必要です。

Q.胃を全摘出すると、食事はとれなくなりますか?

A.胃を全摘出しても、食道と小腸(空腸)を直接つなぎ合わせる再建術をおこなうため、口から食事をとることは十分に可能です。ただし、食べ物を一時的に貯留する機能が失われるため、1回の食事量を減らして156回に分けて食べる、よく噛むといった食生活の大きな工夫が必要となります。また、急激に食べ物が腸に流れ込むことで生じるダンピング症候群を防ぐための食事指導をおこないます。

 

受診の目安

早期の胃がんは自覚症状が全くないため、「食べ物が胸や胃につかえる」「みぞおちの鈍痛が何日も続く」「意図せず体重が落ちた」といった明確な症状があらわれた時点では、すでにがんが深く進行している可能性が高い状態です。

症状が出てから受診するのではなく、ピロリ菌に感染したことがある方、あるいは40歳を超えた方は、無症状の段階から年1回の内視鏡検査による客観的な評価をうけていただくことが、最大の防衛策となります。

万が一、「真っ黒なタール状の便が出る」「血を吐いた」「少し動いただけで息切れがする」といった症状があらわれた場合は、胃の粘膜から持続的に出血している極めて危険なサインです。命に関わる出血性ショックに陥る恐れがあるため、ただちに消化器内科を受診し、精密検査と的確な治療を開始してください。