胃ポリープ
胃ポリープ
胃ポリープは、胃の壁の最も内側にある粘膜の上皮細胞が局所的に増殖し、胃の内腔に向かって隆起した病変の総称です。大腸ポリープの多くが放置するとがん化するリスクを持つのに対し、胃ポリープの圧倒的多数は「胃底腺ポリープ」や「過形成性ポリープ」と呼ばれる良性の病変であり、がん化するリスクは極めて低いという明確な臓器特異性があります。初期段階では自覚症状は全くなく、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)で偶然発見されることが大半です。ポリープの発生には「ヘリコバクター・ピロリ菌」の感染状態が強く関与しており、ピロリ菌がいない綺麗な胃に発生するものと、ピロリ菌による慢性的な炎症を背景に発生するものに大別されます。大半は経過観察で問題ありませんが、サイズが大きく出血のリスクがあるものや、前がん病変である「胃腺腫(いせんしゅ)」が疑われる場合は、内視鏡による切除やピロリ菌の除菌治療が必要となります。放置してよいものか、治療介入が必要かを見極めるための客観的評価が極めて重要です。
胃ポリープそのものが特異的な症状を引き起こすことは、大半のケースにおいて存在しません。
・無症状:一般的なサイズの胃底腺ポリープや過形成性ポリープは、痛覚神経を刺激せず、物理的な通過障害も起こさないため、完全に無症状です。
・出血に伴う症状:過形成性ポリープが数センチ単位に大きく成長すると、表面の粘膜がこすれてびらん(ただれ)を生じ、そこからじわじわと出血することがあります。これにより、便が黒くなる(タール便)ことや、慢性的な出血による鉄欠乏性貧血(息切れ、動悸、めまい)が進行して初めて異常に気づくケースが存在します。
・通過障害:極めてまれですが、胃の出口(幽門部)付近に巨大なポリープが形成された場合、食べ物の通過を物理的に妨げ、食後のもたれ感や嘔吐を引き起こすことがあります。
胃の壁の最も内側にある「粘膜」の細胞が増殖して隆起したものが胃ポリープです。
胃ポリープは、顕微鏡で見た細胞の組織学的特徴によって、大きく3つの代表的な種類に分類されます。これらは発生するメカニズムや背景となる胃の環境が全く異なります。
1. 胃底腺ポリープ:胃酸を分泌する「胃底腺」という組織の細胞が増殖したものです。
2. 過形成性ポリープ:胃の粘膜が炎症と再生を繰り返す過程で、細胞が過剰に増殖(過形成)してしまったものです。
3. 胃腺腫:良性と悪性(がん)の中間に位置する、いわゆる「前がん病変」です。細胞の遺伝子に異常が蓄積しており、放置すると高い確率で胃がんへ進行する特異な病態です。
種類によって、内視鏡で観察した際の色調や形態に明確な特徴があります。
・胃底腺ポリープ:周囲の正常な胃粘膜と全く同じ色(肌色)をしており、表面がツルツルとした数ミリの半球状の隆起です。胃に多発することが多いのが特徴です。がん化するリスクは皆無に等しいため、放置しても医学的な問題は生じません。
・過形成性ポリープ:赤みが強く、表面がいちごのようにゴツゴツ・ザラザラしているのが特徴です。サイズは数ミリから数センチまで様々です。原則として良性ですが、2センチメートルを超えるような巨大なものは、数%の確率で内部にがん細胞が混じる(がん化する)リスクがあるため警戒が必要です。
・胃腺腫:周囲の粘膜よりも白っぽく色が抜けており(退色調)、平べったく盛り上がる形態をとります。高齢男性に多くみられ、早期胃がんとの鑑別が非常に難しいのが特徴です。
胃ポリープが発生する最大の背景因子は「ヘリコバクター・ピロリ菌」の感染の有無です。
・胃底腺ポリープの原因:ピロリ菌に感染したことがない、萎縮のない健康で綺麗な胃(胃酸の分泌が保たれている胃)にのみ発生します。近年、ピロリ菌未感染者が増加していること、ならびに逆流性食道炎などの治療で強力な胃酸分泌抑制薬(PPIやP-CAB)を長期間内服している方に多発する傾向があることが科学的に示されています。
・過形成性ポリープの原因:ピロリ菌の持続感染による「慢性胃炎(萎縮性胃炎)」が絶対的な発生基盤となります。ピロリ菌による持続的な粘膜へのダメージと、それを修復しようとする過剰な再生反応がポリープを形成します。
・胃腺腫の原因:過形成性ポリープと同様に、ピロリ菌感染に伴う高度な萎縮性胃炎および腸上皮化生という、極めて荒れた胃の環境から発生します。
ポリープの正確な種類を見極め、胃がんが隠れていないかを評価するため、以下の検査をおこないます。
・上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):診断において不可欠な絶対的検査です。ポリープの色、形、表面の血管の模様(NBIやBLIなどの画像強調観察を使用)を直接拡大して観察し、胃底腺ポリープか、過形成性ポリープか、あるいは胃腺腫・早期胃がんかを視覚的に鑑別します。
・病理組織検査(生検):内視鏡の観察で胃腺腫やがんが疑われる場合、あるいは過形成性ポリープの表面が崩れている場合などに、ポリープの一部を専用の器具でかじり取り、顕微鏡で細胞の顔つきを客観的に診断します。
・ピロリ菌検査:ポリープの背景にある胃炎の状態を評価するため、迅速ウレアーゼ試験や呼気検査、血液検査などでピロリ菌感染の有無を調べます。
ポリープの種類とサイズ、ならびにピロリ菌の感染状態に基づいて、治療の要否を厳密に判断します。
1. 経過観察
「胃底腺ポリープ」と診断された場合は、治療は一切不要です。また、サイズが1センチメートル未満で出血のない「過形成性ポリープ」も、直ちにがん化するリスクは極めて低いため、年1回程度の内視鏡によるサイズ確認(経過観察)とします。
2. ピロリ菌の除菌治療
過形成性ポリープがあり、ピロリ菌に感染している患者さんに対しては、まず除菌治療(抗菌薬と胃薬の内服)をおこないます。除菌に成功して胃の炎症が鎮まると、約70%の確率で過形成性ポリープが縮小・消失することが医学的に証明されています。
3. 内視鏡的切除(ポリープ切除術・ESD)
以下の条件に当てはまる場合は、内視鏡の先端から電気メスを出してポリープの根元から切り取る治療をおこないます。
・過形成性ポリープ:サイズが2センチメートル以上と大きくがん化のリスクがある場合、あるいは表面から出血して貧血の原因となっている場合。
・胃腺腫:がんへ進行する前がん病変であるため、サイズにかかわらず内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などの高度な手技を用いて、確実な切除をおこないます。
Q.大腸ポリープが見つかったので、胃ポリープもとってほしいのですが?
A.大腸ポリープ(腺腫)は放置すると大腸がんへ進行するため、見つけ次第その場で切除するのが基本原則です。しかし、胃ポリープの多く(胃底腺ポリープなど)はがん化しない完全な良性病変です。不要なポリープを切除することは、出血や胃に穴が開く(穿孔)といった合併症リスクを患者さんに負わせることになるため、医学的な適応がない限り切除はおこないません。
Q.胃底腺ポリープがたくさんあると言われました。胃がんになりやすいですか?
A.逆です。胃底腺ポリープが存在するということは、「ピロリ菌に感染しておらず、胃酸がしっかりと出ている健康な胃である」という強力な客観的証拠となります。このタイプの胃から胃がんが発生する確率は極めて低いため、むしろ安心してよい所見といえます。
Q.ピロリ菌を除菌したのに、ポリープが消えません。
A.過形成性ポリープの多くは除菌で縮小しますが、すべてが完全に消えるわけではありません。残ったポリープであっても、サイズが小さく出血がなければそのまま放置して問題ありません。ただし、除菌後であっても胃がんが発生するリスクは残るため、定期的な内視鏡による監視は継続していただく必要があります。
胃ポリープ自体は無症状であるため、「症状が出たから受診する」のではなく、バリウム検査や健康診断の胃カメラで「ポリープの疑い」を指摘された段階で、消化器内科を受診して正確な診断を確定させることが基本となります。
万が一、「便が真っ黒(タール状)になった」「ふらふらして立ちくらみがする」「みぞおちが重く痛む」といった症状があらわれた場合は、大きな過形成性ポリープから出血しているか、あるいはポリープではなく進行した胃がんや胃潰瘍が隠れている可能性を示す極めて重要なサインです。これらの症状がある場合は、自己判断で様子を見ることなく、速やかに上部消化管内視鏡検査による客観的評価をうけてください。