薬剤性腸炎(下痢・血便・腹痛)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

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薬剤性腸炎

薬剤性腸炎(下痢・血便・腹痛)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

サマリー(時間がない方はこちらをどうぞ)

薬剤性腸炎は、感染症や痛みの治療目的で投与された医薬品が引き金となり、腸管の粘膜に急激な炎症や組織障害が引き起こされる病態の総称です。主に、抗菌薬(抗生物質)によって腸内細菌のバランスが崩れることで発症する「抗菌薬起因性腸炎(出血性腸炎や偽膜性腸炎)」と、解熱鎮痛薬(NSAIDs)によって腸管粘膜のバリア機能が低下することで発症する「NSAIDs起因性腸炎」などに大別されます。

原因となった薬剤の服用開始から数日以内に、突然の激しい腹痛、頻回の下痢、あるいは血便があらわれることが特徴です。治療の基本は「原因となっている薬剤の投与を直ちに中止すること」ですが、病態によっては特定の原因菌を退治するための新たな抗菌薬投与が必要になるケースもあります。薬剤内服中に異常な消化器症状があらわれた場合は、自己判断で下痢止めなどを使用せず、速やかに内視鏡検査等による客観的な病態評価をうけることが極めて重要です。

症状について

原因となる薬剤と病態によって、あらわれる症状に明確な違いがあります。

 

  1. 出血性腸炎(主にペニシリン系などの抗菌薬によるもの)

抗菌薬の内服開始から数日(多くは34日以内)という短期間で、突然の激しい腹痛があらわれます。その後、水のような下痢が始まり、すぐに鮮やかな赤い血が混じる「血便(鮮血便)」へと変化するのが特徴です。発熱は伴わないか、あっても微熱程度にとどまることが多い傾向にあります。

  1. 偽膜性腸炎(抗菌薬全般によるもの)

抗菌薬の投与中、あるいは投与終了後数週間経ってから発症することがあります。腹痛とともに、頻回の激しい水様性下痢(1日数回から十数回)があらわれます。出血性腸炎とは異なり、肉眼的な血便は少なく、粘液が混ざった便が出ることや、38度以上の発熱、強い倦怠感を伴うことが多い病態です。

  1. NSAIDs起因性腸炎(痛み止めによるもの)

小腸や大腸に潰瘍が形成されても、鎮痛薬自体の作用で痛みがマスクされるため、初期は「無症状」のまま進行することが少なくありません。潰瘍からのじわじわとした出血によって「貧血(息切れやめまい)」が進行して発見されるケースや、潰瘍が治る過程で腸管が硬く狭くなり(狭窄)、腸閉塞に近い腹痛や嘔吐を引き起こして初めて異常が顕在化するケースが存在します。

病気の概要

薬剤性腸炎は、ウイルスや食中毒の原因菌などが体外から侵入して起こる「感染性腸炎」とは根本的に異なり、薬剤という化学物質が引き金となって生じる医原性(医療行為に関連した)の疾患です。

一つの病名のように呼ばれますが、実際には原因となる薬ごとに腸にダメージを与えるメカニズムが全く異なります。代表的な病型として、抗菌薬の影響で腸内細菌のバランスが崩れて特定の悪玉菌が異常増殖する「偽膜性腸炎(ぎまくせいちょうえん)」や「抗生物質起因性出血性大腸炎」、痛み止めの影響で粘膜の防御機能が低下して潰瘍ができる「NSAIDs(エヌセイズ)潰瘍」、さらには近年増加している、がんの免疫治療薬によって自己免疫反応が暴走して起こる「免疫関連有害事象(irAE)腸炎」などに細分化されます。いずれも、早期に病態を見極め、適切なアプローチをとることが求められます。

病気の特徴

腸管の粘膜は、血流や粘液といった「防御因子」と、腸内に生息する数百兆個の「腸内細菌叢(マイクロバイオーム)」の絶妙な均衡によって健康が維持されています。薬剤性腸炎は、外部から投与された薬理学的な物質がこの均衡を人為的に破壊することで発症します。

抗菌薬起因性腸炎は、抗菌薬によって正常な善玉菌が死滅し、薬が効きにくい特定の病原性細菌だけが異常増殖(菌交代現象)することによって引き起こされます。

一方、NSAIDs起因性腸炎は、痛み止めの成分が、腸の粘膜を保護するための重要な物質(プロスタグランジン)の生成を強力に阻害し、粘膜の血流が急激に低下して組織が破壊される(防御機構の破綻)という、全く異なるメカニズムで発症します。

原因・背景

それぞれの病態を直接的に引き起こす原因菌やメカニズムは以下の通りです。

 

  1. クロストリディオイデス・ディフィシル(CD)感染症

偽膜性腸炎の直接的な原因です。健康な人の腸内にも少数存在することがあるCDという細菌が、抗菌薬(特にセフェム系、ニューキノロン系、クリンダマイシンなど)の投与によって他の細菌が死滅した環境下で異常増殖し、腸管粘膜を破壊する「トキシンAB」という強力な毒素を産生することで激しい炎症を引き起こします。

  1. クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)など

ペニシリン系(アンピシリンなど)の抗菌薬内服による出血性腸炎の原因菌として強く疑われていますが、すべてがこの菌によるものとは限らず、アレルギー的な反応(アレルギー性微小血管炎)が関与している可能性も指摘されています。

  1. 非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs

ロキソプロフェンやジクロフェナクといった一般的な鎮痛薬が、粘膜の血流を維持するシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素の働きを阻害することが原因です。

検査で分かること

原因薬剤の特定と、腸管の炎症・出血の程度を客観的に評価するため、以下の検査を迅速におこないます。

 

・血液検査

白血球数やCRPの上昇から炎症の強さを、ヘモグロビン値の低下から出血に伴う貧血の程度を評価します。偽膜性腸炎が重症化すると、血液中のタンパク質(アルブミン)が腸から漏れ出し、著しい低アルブミン血症を示すことがあります。

・便検査

便を採取し、CDトキシン(毒素)やCD抗原(GDH)が含まれていないかを迅速検査キットで確認します。これにより偽膜性腸炎の確定診断を補助します。

・腹部超音波検査(エコー)およびCT検査

体への負担なく、腸管の壁がどの程度腫れ上がっているかを評価します。出血性腸炎では、右側結腸の壁が著しく分厚くなっている所見が客観的に確認できます。

・大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

診断を確定するための極めて有用な検査です。偽膜の有無や粘膜の出血状態を直接視覚的に評価し、感染性腸炎や潰瘍性大腸炎といった他の重大な疾患ではないことを証明(除外)します。

治療方針について

薬剤性腸炎の治療は、発症の引き金となった「原因への介入」と、炎症を抑え込む「病態に合わせた特異的治療」の二本柱でおこなわれます。

 

  1. 原因薬剤の中止(絶対的な基本方針)

原因と疑われる抗菌薬や鎮痛薬の投与を直ちに中止することが、すべての治療の出発点となります。出血性腸炎の場合、原因薬を中止し、安静と水分補給(点滴など)をおこなうだけで、数日以内に症状が劇的に改善することが大半です。

  1. 偽膜性腸炎に対する特異的抗菌薬療法

原因薬を中止してもCDによる毒素の産生が止まらない場合や症状が重い場合は、CDという特定の細菌を死滅させるための新たな抗菌薬(メトロニダゾールやバンコマイシンの内服など)を投与する必要があります。

  1. NSAIDs腸炎に対する治療

原因となる鎮痛薬を中止し、潰瘍の治癒を促すための粘膜保護薬やプロスタグランジン製剤を投与します。すでに腸管が硬く狭くなっている(隔膜様狭窄)場合は、内視鏡の先端から風船を出して狭い部分を押し広げる「内視鏡的バルーン拡張術」をおこなう、あるいは外科的手術で狭窄部を切除する必要があります。

よくある質問(Q&A)

Q.下痢がひどいので、市販の下痢止め(止瀉薬)を飲んでもよいですか?

A.避けてください。薬剤性腸炎(特に偽膜性腸炎や出血性腸炎)において、腸の動きを止める薬を使用すると、原因菌やその毒素が腸の中に長時間滞留することになります。これにより炎症がさらに悪化し、腸が異常に膨れ上がって命に関わる「中毒性巨大結腸症」などの致命的な合併症を引き起こす危険性が極めて高くなります。

Q.一度出血性腸炎になったら、もう二度と抗菌薬は飲めないのでしょうか?

A.すべての抗菌薬が飲めなくなるわけではありません。ただし、原因となった特定の系統(例えばペニシリン系など)の抗菌薬を使用すると、再び腸炎を誘発するリスクが高いため、今後はその系統を避けるのが原則となります。他の医療機関を受診する際にも、必ず「過去に特定の抗菌薬で腸炎になったことがある」旨を申告していただく必要があります。

受診の目安

「風邪や歯科治療、あるいは整形外科の痛みなどで薬を飲み始めてから数日以内に、突然お腹が激しく痛み出した」「水のような下痢が何度も出て、便器が赤く染まるほどの血が混じった」といった症状があらわれた場合は、薬剤性腸炎を発症している可能性が極めて高い状態です。

これらの症状を「単なる薬の副作用(胃腸障害)だ」と自己判断して薬を飲み続けたり、市販の下痢止めで症状をごまかしたりすると、腸に穴が開く(穿孔)など重篤な事態を招く恐れがあります。異常を感じた場合は直ちに原因薬の内服を中断し、速やかに消化器内科を受診して、大腸内視鏡などによる客観的な評価をうけてください。