大腸カルチノイド(血便・腹痛・便が細い)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

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大腸カルチノイド

大腸カルチノイド(血便・腹痛・便が細い)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

サマリー(時間がない方はこちらをどうぞ)

カルチノイド(現在では主に「神経内分泌腫瘍:NET」と呼ばれます)は、全身の臓器に分布する「神経内分泌細胞」から発生する腫瘍です。消化管では特に直腸、胃、十二指腸などに多くみられます。一般的な「がん」が粘膜の表面から発生するのに対し、カルチノイドは粘膜の下(粘膜下層)で増殖するため、表面が正常な粘膜で覆われたなだらかな隆起(粘膜下腫瘍)として観察されます。「がん(Carcinoma)に似たもの(-oid)」という意味で名付けられましたが、実際にはリンパ節や肝臓への転移リスクを持つ悪性腫瘍の一種です。ただし、一般的ながんと比較して細胞の増殖スピードが非常に緩やかであるという特徴を持ちます。多くは無症状のまま大腸内視鏡検査などで偶然発見されます。サイズが小さく特定の条件を満たせば内視鏡による切除ができる病変ですが、大きくなると外科的手術が必要になります。悪性度や深さを正確に評価し、過不足のない適切な治療方針を決定することが極めて重要です。

症状について

消化管に発生したカルチノイドの多くは、サイズが小さいうちは無症状です。特に大腸(直腸)カルチノイドは、健康診断や便潜血検査陽性の精査目的でおこなわれた大腸内視鏡検査において、偶然発見されるケースが大半を占めます。

腫瘍が数センチにまで大きくなると、表面の粘膜が引き伸ばされて崩れ、潰瘍を形成します。これにより「便に血が混じる(血便)」や「お腹が痛い」「便が細くなる」といった物理的な通過障害や出血の症状があらわれるようになります。

また、この腫瘍に特有の症状として「カルチノイド症候群」があります。腫瘍細胞がセロトニンなどのホルモン(生理活性物質)を過剰に産生・分泌することで引き起こされ、顔や首が赤くなる(紅潮)、原因不明の激しい水様性の下痢が続く、気管支が収縮して喘息のように息苦しくなる、右心不全を起こすといった全身症状があらわれます。ただし、消化管のカルチノイドから分泌されたホルモンは、門脈を通って肝臓に入り、そこで分解(代謝)されるため、通常は無症状です。肝臓に多発転移して代謝をすり抜けた場合や、ホルモンが直接全身の血流に乗る部位に発生した場合にのみ、これらの特異な全身症状が顕在化します。

病気の概要

カルチノイドは、神経細胞の性質と、ホルモンを血液中に分泌する内分泌細胞の性質をあわせ持つ「神経内分泌細胞」が腫瘍化したものです。歴史的に「カルチノイド」と呼ばれてきましたが、現在では国際的なWHO分類により「神経内分泌腫瘍(NETNeuroendocrine Tumor)」という名称に統一されています。

腫瘍細胞の悪性度(増殖スピード)を評価するため、細胞分裂の指標である「Ki-67細胞増殖マーカー」の割合や、細胞分裂の数を用いて分類をおこないます。これによって、おとなしいものから順に「NET G1」「NET G2」「NET G3」、さらに極めて悪性度が高く進行が早い「神経内分泌がん(NEC)」の4段階に細分化されます。従来カルチノイドと呼ばれていた病変の大半は、この中の「NET G1」および「NET G2」に該当します。

大腸においては、直腸(肛門のすぐ上の部分)に発生する頻度が最も高く、直腸カルチノイドは消化管NET全体の半数以上を占めると統計的に示されています。

病気の特徴

内視鏡で観察した際の形態に強い特徴があります。直腸カルチノイドの場合、表面がツルツルとした正常な粘膜で覆われており、粘膜の下に黄色や白色を帯びたなだらかなしこりとして透けて見えます。腫瘍の中心部がわずかにへこむ(中心陥凹)ことも特徴の一つであり、このへこみがある場合は腫瘍がより深い層に浸潤しているサインとして警戒する必要があります。

最大の特徴は、「どんなに小さくても転移する能力を持っている(悪性である)」という点です。10ミリ未満の小さな病変であっても、数%の確率で周囲のリンパ節や肝臓へ転移している可能性があり、血管やリンパ管といった脈管に腫瘍細胞が入り込みやすい(脈管侵襲)という生物学的な性質を持っています。そのため、「ただの良性のポリープ」とは明確に区別し、厳格な基準に基づく治療と、年単位での長期的な経過観察をおこなう必要があります。

原因・背景

カルチノイド(NET)が発生する明確な原因は、大半のケースにおいて解明されておらず、散発性(偶発的な遺伝子変異などによりたまたま発生するもの)であると考えられています。一般的な大腸がんと異なり、食事の欧米化や喫煙、飲酒などの生活習慣との直接的な因果関係は明確に証明されていません。

一方で、ごく一部のケースにおいては遺伝的な背景が関与していることが知られています。代表的なものが「多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)」という遺伝性疾患です。MEN1遺伝子の変異によって、副甲状腺、下垂体、膵臓、および消化管(主に胃や十二指腸)などに多発性の神経内分泌腫瘍が発生しやすくなります。しかし、直腸カルチノイドを単発で発症した患者さんの多くは、このような遺伝的背景を持たない一般的な発症パターンです。

検査で分かること

カルチノイドの確定診断、悪性度(グレード)の評価、および病変の広がりを確認するために、以下の検査を組み合わせて客観的に評価します。

 

・大腸内視鏡検査および生検

腫瘍の大きさ、形態、色調を直接観察します。腫瘍が粘膜の下にあるため、通常の組織検査(生検)では細胞まで届かないことがありますが、同じ場所を深くえぐるように採取(ボーリング生検)することで、病理組織検査をおこないます。採取した組織に「クロモグラニンA」や「シナプトフィジン」といった神経内分泌マーカーを用いた特殊な免疫染色をおこない、NETであることを確定させます。

・超音波内視鏡検査(EUS

内視鏡の先端から超音波を当てて、腸管の壁の断層画像を調べます。腫瘍が粘膜下層のどの深さまで及んでいるか(深達度)、固有筋層という深い筋肉の層にまで達していないか、周囲のリンパ節が腫れていないかを数ミリ単位で評価します。内視鏡で安全に切除できるかどうかの重要な判断材料となります。

・造影CT検査・MRI検査

腫瘍が腸の壁を越えて周囲の臓器に広がっていないか、肝臓や遠くのリンパ節などに転移していないか(ステージング)を全身的な視点から精査します。

治療方針について

カルチノイドの治療は、腫瘍の大きさ、浸潤の深さ(深達度)、リンパ節転移の有無、および組織のグレード(Ki-67指数など)によって厳密に決定されます。

 

  1. 内視鏡的切除

直腸カルチノイドの場合、「大きさが10ミリ(1センチ)未満」「超音波内視鏡で固有筋層に達していない(粘膜下層にとどまっている)」「CTなどでリンパ節や他臓器への転移がない」という条件をすべて満たせば、内視鏡による切除が標準的な治療となります。ただし、通常のポリープ切除(スネアで縛り取るだけ)では根元に腫瘍が残ってしまう(不完全切除)リスクが非常に高いため、専用の吸引装置付きの器具を用いて病変を根元から深く縛り取って切除する方法(ESMR-L)や、専用のナイフで粘膜下層の深い部分を剥離して切り取るESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)といった、より深く確実に一括で切除する高度な内視鏡手技が選択されます。

  1. 外科的手術

大きさが10ミリを超える場合や、深い層(固有筋層)まで腫瘍が入り込んでいる場合、中心に深い陥凹がある場合、リンパ節転移が疑われる場合には、内視鏡では取り切れないため、腸管の一部と周囲のリンパ節を一緒に切除する外科的な手術(腸管切除およびリンパ節郭清)が必要となります。

  1. 薬物療法

すでに肝臓などに多発転移があり、手術での根治が困難な場合は、ホルモン症状を抑えつつ腫瘍の増殖を抑えるソマトスタチンアナログ製剤や、分子標的薬、あるいは放射性同位元素を用いた特殊なペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)などを組み合わせて治療をおこないます。

よくある質問(Q&A)

Q.カルチノイドは「がん」とは違うのですか?

A.カルチノイド(NET)は、胃がんや大腸がんなどの一般的な「がん(Carcinoma)」とは発生する細胞の起源が異なります。しかし、周囲の組織を破壊しながら広がり、リンパ管や血管を通って他の臓器へ転移するという性質を持つ点では「悪性腫瘍」です。一般的ながんよりも増殖スピードが遅く、進行がゆっくりであるケースが多いという違いがありますが、放置してよい良性腫瘍ではありません。

 

Q.内視鏡で切除したあとに再発することはありますか?

A.内視鏡で完全に切除できた(病理検査で切除した断端に腫瘍細胞がなく、脈管侵襲がないと確認された)場合、その場所での局所再発リスクは非常に低くなります。しかし、カルチノイドは微小な段階で目に見えない転移を起こしている可能性がゼロではないため、切除後も数年単位で定期的な内視鏡検査やCT検査をおこない、再発や転移がないか慎重に経過観察をしていくことが不可欠です。

 

Q.大きさが5ミリなので経過観察でよいと言われたのですが?

A.直腸カルチノイドの場合、10ミリ未満であればリンパ節転移の確率は数%と低いのは事実ですが、決してゼロではありません。小さな病変であっても悪性腫瘍である以上、放置せずに内視鏡による完全な切除(ESMR-LESD)をおこなうのが現在の医学的な標準方針です。経過観察を推奨された場合は、セカンドオピニオンを含めて消化器内科の専門医にご相談いただくことをお勧めします。

受診の目安

カルチノイド自体は無症状であることが多いため、40歳を過ぎたら、便潜血検査の受診や、定期的な大腸内視鏡検査(スクリーニング検査)をうけることが早期発見のための最も有効な手段となります。

また、便に赤い血が混じる、便が細くなる、残便感があるといった症状が続く場合は、カルチノイドが大きくなっているか、あるいは一般的な大腸がんが隠れている可能性があるため、速やかに消化器内科を受診してください。さらに、顔の火照り(紅潮)や原因不明の激しい下痢が長期間続く場合は、カルチノイド症候群の疑いもゼロではないため、内科での詳細な客観的評価をうけることが推奨されます。