痔核・裂肛(血便・排便痛)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

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痔核・裂肛

痔核・裂肛(血便・排便痛)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

サマリー(時間がない方はこちらをどうぞ)

痔核(いぼ痔)および裂肛(きれ痔)は、肛門周辺の組織に物理的な負荷がかかることで発生する良性疾患であり、日本人の成人の多くが一度は経験するとされる極めて頻度の高い病態です。命に関わる疾患ではありませんが、排便時の激しい痛みや出血、肛門からの組織の脱出などを伴うため、日常生活の質(QOL)を著しく低下させます。

最大の懸念点は、これらの疾患の代表的な症状である「便に血が混じる(血便)」が、大腸がんや潰瘍性大腸炎などの重大な消化器疾患の初期症状と完全に一致していることです。「ただの痔だろう」と自己判断して放置した結果、がんの発見が遅れるケースが後を絶ちません。治療は、排便習慣の見直しなどの生活改善や軟膏による保存的治療が基本となりますが、進行度によっては外来での硬化療法や外科的手術が必要となります。出血や痛みがある場合は、その原因が肛門の良性疾患であるのか、腸の奥に潜む悪性疾患であるのかを、大腸内視鏡検査を含めて客観的に切り分けて評価することが極めて重要です。

症状について

痔核と裂肛は、発生する解剖学的な位置と病態によって、あらわれる症状が明確に異なります。

 

  1. 内痔核(直腸側にできるいぼ痔)の症状

初期段階では痛みが全くないのが最大の特徴です。排便時にいきんだ際、便の表面に鮮やかな赤い血(鮮血)が付着したり、ポタポタと便器に血が垂れ落ちたりすることで発見されます。進行すると、排便のたびにいぼが肛門の外に飛び出すようになり(脱出)、指で押し込まないと戻らなくなります。さらに悪化すると、歩行時や重いものを持っただけでも脱出するようになり、下着が汚れるなどの不快感が持続します。

 

  1. 外痔核(肛門側にできるいぼ痔)の症状

知覚神経が豊富な皮膚部分にできるため、発生した瞬間から痛みを伴います。特に、内部で血の塊(血栓)が形成される「血栓性外痔核」の場合は、突然の激しい痛みとともに、肛門の縁にパチンコ玉のような硬いしこりが触れるようになります。

 

  1. 裂肛(きれ痔)の症状

排便の瞬間に、肛門が引き裂かれるような鋭い痛み(疼痛)が走ります。出血量は比較的少なく、トイレットペーパーに赤い血が少量付着する程度であることが大半です。排便後もしばらく痛みが持続することが多く、この痛みへの恐怖心から無意識に排便を我慢してしまい、便がさらに硬くなって再び肛門が裂けるという悪循環に陥りやすいのが特徴です。

病気の概要

人間の直腸と肛門の境界には「歯状線(しじょうせん)」と呼ばれるギザギザの境界線が存在します。この歯状線を境にして、上部(腸側)は自律神経支配で痛みを感じない粘膜、下部(皮膚側)は体性神経支配で痛みを感じる皮膚(肛門上皮)となっています。

 

・痔核(いぼ痔)の病態

肛門の粘膜下には、便やガスが漏れないようにパッキンの役割を果たす「静脈叢(毛細血管の集まり)」と弾力繊維からなる「肛門クッション」が存在します。このクッション組織が、長年の排便時のいきみやうっ血によって引き伸ばされ、支持組織が断裂して瘤(こぶ)のように腫れ上がったものが痔核です。歯状線より上にできたものを「内痔核」、下にできたものを「外痔核」と呼びます。

・裂肛(きれ痔)の病態

歯状線より下の、痛みを感じる肛門上皮が物理的に裂けた状態(裂傷)です。硬い便が無理に通過する際や、激しい下痢便が勢いよく通過する際の圧力によって上皮が引き裂かれます。

病気の特徴

それぞれの疾患は、進行度によって明確な段階(分類)が存在し、それによって治療方針が決定されます。

 

  1. 内痔核の進行度(Goligher分類)

I度:排便時に出血するが、脱出はない。

II度:排便時に脱出するが、排便が終わると自然に元に戻る。

III度:排便時に脱出し、指で押し込まないと戻らない。

IV度:常に脱出したままで、指で押し込んでも戻らない。

 

  1. 裂肛の慢性化

裂肛は初期の段階(急性裂肛)であれば、単なる浅い切り傷であるため数日で治癒します。しかし、裂けたり治ったりを長期間繰り返すと、傷口が深くえぐれた潰瘍(慢性裂肛)となります。慢性化すると、傷口の奥に細菌が入り込んで炎症性のポリープ(肛門ポリープ)を形成したり、傷の外側がイボのように腫れ上がったり(見張りいぼ)します。さらに進行すると、傷跡の組織が線維化して硬く縮み、肛門そのものが極端に狭くなる「肛門狭窄(きょうさく)」を引き起こし、鉛筆の芯ほどの細い便しか出なくなることがあります。

原因・背景

痔核や裂肛の発症と悪化には、生活習慣や排便環境といった力学的な負荷(メカニカルストレス)が直接的に関与しています。

 

  1. 便通異常(便秘と下痢)

慢性的な便秘により、トイレで長時間強くいきむ(怒責)習慣があると、肛門クッションの血流が滞り(うっ血)、痔核が急速に増大します。また、水分を失ったカチカチの便は裂肛の最大の原因です。一方で、慢性の下痢も肛門の組織に強い圧力をかけ、炎症を引き起こすためリスク要因となります。

  1. 生活習慣と姿勢

デスクワークや長距離運転など、長時間同じ姿勢で座り続けることは、骨盤内の血液循環を悪化させ、肛門周辺のうっ血を助長します。また、過度なアルコール摂取や香辛料などの刺激物は、局所の炎症を強める要因となります。

  1. 妊娠および出産

妊娠による骨盤内の血流の変化や、胎児の成長に伴う物理的な圧迫、さらに分娩時の強いいきみは、女性において痔核が急速に悪化する非常に大きな契機となります。

検査で分かること

診断と重症度の評価のため、以下の検査を段階的におこないます。

 

・視診および指診(直腸診)

肛門の外観を観察し、外痔核や裂肛、見張りいぼの有無を確認します。続いて、医師が手袋をした指にゼリーを塗り、肛門内に挿入して直接触診します。内痔核の大きさ、直腸粘膜の異常、肛門を締める筋肉(括約筋)の緊張度合い、そして直腸がんなど硬い腫瘍の有無を指の感覚で評価します。

・肛門鏡検査

筒状の専用の器具(肛門鏡)を挿入し、直腸下部から肛門管の内部を直接肉眼で観察します。内痔核の正確な位置や大きさ(Goligher分類)、出血の有無、裂肛の深さなどを視覚的に確定します。

・大腸内視鏡検査(大腸カメラ)

「便に血が混じる」という症状に対して最も重要な検査です。出血の原因が本当に肛門の痔核や裂肛だけによるものなのか、あるいは直腸がん、大腸ポリープ、潰瘍性大腸炎、クローン病などの重大な腸の病変が奥に隠れていないかを、全大腸を直接観察して客観的に証明(除外診断)するために実施します。

治療方針について

痔核・裂肛の治療は、生活指導と薬物療法による「保存的治療」を第一選択とし、改善しない場合や進行度が高い場合に「外科的治療」を検討します。

 

  1. 保存的治療(基本治療)

・生活習慣の改善:食物繊維と水分の十分な摂取により、いきまずに排便できる柔らかい便(理想的なバナナ状の便)を作ることが全ての治療の根幹です。また、トイレに長居して無意味にいきむ習慣をやめるよう指導します。

・薬物療法:便を柔らかくする緩下剤(酸化マグネシウムなど)を内服し、排便時の物理的な負荷を軽減します。局所の炎症や痛みを抑えるため、ステロイドや局所麻酔薬が含まれた注入軟膏や坐薬、血流を改善する内服薬を使用します。急性裂肛やIII度の内痔核の多くは、これらで十分コントロールが可能です。

 

  1. 外科的治療・処置

・内痔核硬化療法(ALTA療法・ジオン注射):脱出を伴う内痔核(IIIII度)に対する治療です。特殊な硬化剤(ALTA)を痔核の4カ所に分割して注射し、血管に炎症を起こして血流を遮断し、痔核を硬く縮ませて粘膜に癒着・固定させます。切除しないため痛みが少なく、日帰りでの治療が可能な有効な手技です。

・結紮切除術(LE):ALTA療法が適応とならない外痔核を伴う大きな内痔核や、IV度の内痔核に対する根治的な手術です。痔核に血液を送る動脈を根元で縛り(結紮)、痔核そのものをメスで切り取ります。

・裂肛に対する手術:慢性裂肛により肛門が狭窄している場合、肛門の筋肉の一部を切開して緊張を緩める「側方内括約筋切開術(LIS)」や、健康な皮膚をスライドさせて潰瘍部分を覆って広げる「皮膚弁移動術(SSG)」などが検討されます。

よくある質問(Q&A)

Q.痔を放置すると、将来的に大腸がんになりますか?

A.痔核や裂肛の細胞が、時間が経つことで大腸がん(直腸がん)の細胞に変化(悪性化)することは解剖学的・病理学的にありません。しかし、「出血しているからいつもの痔だ」と思い込み、長期間放置した結果、同じタイミングで発生していた直腸がんの発見が手遅れになるケースが非常に多く存在します。症状の自己診断は極めて危険です。

 

Q.脱出した内痔核は、自分で押し込んでもよいですか?

A.排便後に脱出した痔核(III度)は、そのままにしておくと血流が滞って腫れ上がり、激しい痛みを伴う「嵌頓(かんとん)痔核」という重篤な状態に陥るリスクがあります。そのため、脱出した場合は、入浴時など肛門の筋肉がリラックスしている状態で、優しく押し戻していただくことが推奨されます。ただし、無理に押し込むと組織を傷つけるため、早めに医療機関で根本的な治療を検討してください。

 

Q.痛みがひどいのですが、市販の痛み止めを飲んでもよいですか?

A.血栓性外痔核や強い裂肛による急性期の激しい痛みに対して、ロキソプロフェンなどの市販の鎮痛薬(NSAIDs)を一時的に内服することは痛みの緩和に有効です。ただし、これは対症療法に過ぎず、根本的な治癒を促すものではないため、並行して便通のコントロールと医療機関での客観的評価をうけることが不可欠です。

 

受診の目安

排便時の出血、肛門の強い痛み、しこりや組織の脱出が数日以上続く場合は、速やかに消化器内科または肛門外科を受診してください。

特に、トイレットペーパーに血がつく程度ではなく、便全体に血が混ざっている(粘血便)、血の塊が出る、便が黒っぽくタール状である、便が以前より細くなった、残便感が常に続くといった症状がある場合は、肛門疾患ではなく大腸がんや炎症性腸疾患などの重篤な病変からの出血を強く疑うべきサイン(警告症状)です。年齢にかかわらず、速やかに大腸内視鏡検査による精密な客観的評価をうける必要があります。