急性膵炎(激しい痛み・みぞおちの痛み)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

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急性膵炎

急性膵炎(激しい痛み・みぞおちの痛み)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

サマリー(時間がない方はこちらをどうぞ)

急性膵炎は、胃の裏側に位置する膵臓に突然激しい炎症が起こる急性の病態です。膵臓が作り出す強力な消化液(膵液)が、本来働くべき腸内ではなく、何らかの理由で膵臓の内部で活性化してしまい、自らの組織を溶かしてしまう「自己消化」を引き起こすことが原因です。典型的な症状として、みぞおちから背中にかけての我慢できないほどの激しい痛みや、吐き気、嘔吐が突然あらわれます。軽症のまま数日の絶食と点滴で回復するケースが大半ですが、約1020%は重症化し、炎症が全身に波及して肺や腎臓などの臓器が機能不全に陥る(多臓器不全)極めて危険な状態となります。発症の二大原因は「アルコールの過剰摂取」と「胆石」です。急激な腹痛があらわれた場合は、決して自己判断で市販薬などで対処しようとせず、速やかに救急外来や消化器内科を受診し、客観的な評価と迅速な治療を開始することが命を救う最大の鍵となります。

症状について

急性膵炎の症状は非常に急激にあらわれ、時間とともに激しさを増す傾向があります。

・激しい腹痛:最も典型的かつ頻度の高い症状です。みぞおち(心窩部)を中心に、刺すような、あるいはえぐられるような強烈な痛みが突然起こります。

・背部痛への放散:膵臓は背中側に近い後腹膜臓器であるため、腹部の痛みが背中や腰にまで突き抜けるように広がる(放散痛)のが特徴です。仰向けに寝ると痛みが強くなり、体を丸めてエビのように前かがみになる(前屈位)と痛みがわずかに和らぐため、患者さんは特徴的な姿勢をとることが多くみられます。

・吐き気と嘔吐:激しい痛みに伴い、何度も吐き気や嘔吐を繰り返します。胃液や胆汁を吐き切っても吐き気は治まらず、嘔吐しても腹痛は全く軽減しません。

・全身症状と重症化のサイン:炎症が進行すると、発熱や頻脈があらわれます。さらに重症化して血管から水分が逃げ出すと、血圧が急低下してショック状態に陥り、意識がもうろうとする、息が苦しくなる、尿が出なくなるといった多臓器不全の症状が急激に進行します。まれに、おへその周りや脇腹の皮膚が内出血によって青紫色に変色すること(カレン徴候、グレイ・ターナー徴候)があり、これは膵臓が壊死して出血を伴っていることを示す極めて重篤なサインです。

病気の概要

膵臓は、食べ物(タンパク質、脂肪、炭水化物)を分解する強力な消化酵素(トリプシン、リパーゼ、アミラーゼなど)を作り出す外分泌機能を持っています。通常、これらの酵素は膵臓の内部では「不活性な状態(前駆体)」として安全にパッケージングされており、十二指腸に放出されて初めて活性化して働くという精巧な安全装置が備わっています。

急性膵炎は、この安全装置が破綻する病態です。何らかの引き金によって、膵臓の細胞(腺房細胞)の内部でタンパク質分解酵素であるトリプシンが異常に活性化してしまいます。すると、トリプシンがドミノ倒しのように他の強力な酵素群を次々と目覚めさせ、自らの膵臓の細胞や周囲の脂肪組織、血管の壁を溶かして破壊し始めます(自己消化)。この組織破壊によって大量の炎症性物質(サイトカイン)が放出され、局所の炎症が引き起こされます。

病気の特徴

急性膵炎の最大の特徴であり恐ろしい点は、「局所の炎症にとどまらず、全身の病態(全身性炎症反応症候群:SIRS)へ一気に拡大するリスクを秘めている」ことです。

膵臓が自己消化されて組織が壊死すると、そこから溢れ出た大量のサイトカインや消化酵素が血流に乗って全身を巡ります。これにより全身の血管がダメージを受けて隙間だらけになり、血液中の水分が血管外へ大量に漏れ出します(サードスペースへの移行)。その結果、急激な脱水と血圧低下(ショック)が起こり、血流が不足した腎臓が急性腎不全に陥ります。同時に、肺の血管からも水分が漏れ出して肺に水が溜まり、呼吸困難(ARDS)を引き起こします。このように、膵臓という一つの臓器のトラブルが、数時間から数日のうちに全身の臓器を巻き込んだ致命的な連鎖反応を引き起こすという、他の消化器疾患にはない爆発的な進行スピードを持つのが急性膵炎の特徴です。

原因・背景

急性膵炎を発症する原因の約7080%は、「アルコール」と「胆石」の2つによって占められています。

  1. アルコール性急性膵炎

長期間の大量飲酒、あるいは短期間での一気飲みなどが引き金となります。アルコールが膵液の成分を変化させてドロドロのタンパク栓を作り出し、細い膵管を詰まらせることで膵液の流れが滞ります。また、アルコールそのものが膵臓の細胞に対して直接的な毒性を持ち、酵素の異常活性化を引き起こすと考えられています。男性の発症原因の第1位です。

  1. 胆石性急性膵炎

胆嚢で作られた胆石が、胆管を転がり落ちて十二指腸の出口(ファーター乳頭)にパチンと詰まることで発生します。膵臓の管(膵管)と胆管は出口の手前で合流しているため、ここが塞がれると、胆汁が膵管に逆流したり、膵液が排出できずに膵管内の圧力が急上昇したりして、膵臓の細胞が破壊されます。女性の発症原因の第1位です。

  1. その他の原因

血液中の中性脂肪が異常に高い状態(高トリグリセリド血症)は、分解された遊離脂肪酸が膵臓に毒性を示すため原因となります。そのほか、内視鏡検査(ERCP)後の偶発症、腹部の強い打撲傷、特定の薬剤、先天的な膵管の形態異常などが原因となることもあります。

検査で分かること

診断と重症度の判定、および原因の特定のために、複数の検査を組み合わせて迅速に評価をおこないます。

 

・血液・尿検査

膵臓の細胞が破壊されたことを示す膵酵素(アミラーゼ、とくに膵臓に特異的なリパーゼ)の異常な上昇を確認します。また、白血球やCRPの上昇から炎症の強さを、BUNやクレアチニンから脱水や腎障害の程度を、血小板数などから全身の血液凝固異常がないかを評価し、国が定める「重症度判定基準」に照らし合わせて重症度をスコアリングします。胆石が原因の場合は、肝臓の数値やビリルビンが著しく上昇します。

・腹部超音波(エコー)検査

放射線を使わずに、胆嚢や胆管に胆石が詰まっていないかを確認するための第一段階の検査です。ただし、急性膵炎の際は腸にガスが溜まりやすく、胃の裏側にある膵臓全体を観察するのが難しい場合があります。

・腹部造影CT検査

急性膵炎の診断と重症度評価において最も強力かつ不可欠な検査です。造影剤を注射して撮影することで、膵臓がどの程度腫れ上がっているか、周囲にどれくらい炎症の液体が広がっているかを立体的に把握します。さらに重要な点として、膵臓の組織に血液が通わなくなって死滅している部分(壊死)の有無と広がりを正確に捉えることができ、今後の治療方針を決定する決定的な指標となります。

治療方針について

急性膵炎の治療は、膵臓を徹底的に休ませることと、全身の水分バランスを維持することが二本柱となります。

 

  1. 絶食・絶飲と大量輸液(初期治療の要)

食べ物や飲み物が胃に入ると、それを消化しようと膵臓が活発に働き、自らを溶かす酵素をさらに放出してしまいます。そのため、直ちに「絶食・絶飲」として膵臓を完全に休眠状態にします。絶食している間、および血管から漏れ出した大量の水分を補うために、発症直後の数時間は1日に数リットルという非常に大量の点滴(細胞外液補充液)を急速に投与します。この大量輸液によって膵臓の微小な血流を維持し、組織の壊死を防ぐことが、重症化を食い止めるための最も重要な初期治療となります。

  1. 薬物療法

激しい痛みを和らげるため、強力な鎮痛薬(オピオイドなど)を投与します。また、重症例では膵臓の酵素の働きを抑えるタンパク分解酵素阻害薬の点滴や、感染を防ぐための抗菌薬を投与することがあります。

  1. 原因へのアプローチ(胆石の除去)

胆石が十二指腸の出口に詰まっている「胆石性急性膵炎」の場合は、早急に内視鏡(十二指腸カメラ)を挿入し、出口を切開して詰まっている石を取り除く処置(内視鏡的乳頭括約筋切開術など)をおこなう必要があります。

  1. 栄養療法

腸を長期間使わないと、腸のバリア機能が低下して腸内細菌が血液中に侵入する(バクテリアルトランスロケーション)リスクが高まります。そのため、重症例であっても嘔吐や腸の麻痺が落ち着けば、鼻から腸の奥(空腸)までチューブを入れ、成分栄養剤を注入する経腸栄養を早期から開始し、感染症を防ぎます。

  1. 壊死部への介入

膵臓が広範囲に壊死し、そこに細菌が感染した(感染性膵壊死)場合は、放置すると敗血症で命を落とすため、数週間後に内視鏡やカテーテル、あるいは外科的手術によって壊死した組織や膿を取り除く処置(ドレナージやネクロセクトミー)が必要となります。

よくある質問(Q&A)

Q.急性膵炎は命に関わる病気ですか?

A>はい、非常に危険な病気です。全体の約8割は軽症で治癒しますが、残り2割の重症急性膵炎に移行した場合、現代の高度な集中治療をもってしても数%〜10%程度の死亡率が存在します。そのため、どんなに軽い腹痛であっても、膵炎が疑われる場合は決して軽視せず、入院設備のある医療機関での厳重な管理が必要です。

 

Q.一度治ったら、もう普通の食事やお酒に戻してもいいですか?

A.アルコールが原因で発症した場合は、退院後も「完全な禁酒」を生涯にわたって継続していただく必要があります。飲酒を再開すると極めて高い確率で再発し、慢性膵炎へと移行して治癒不能な状態に陥ります。また、食事についても、膵臓に負担をかける脂肪分の多い食事(揚げ物や霜降り肉など)は控え、消化の良い食生活を心がけてください。

 

Q.胆石が原因だった場合、膵炎が治れば安心ですか?

A.胆管の石を取って膵炎が治癒しても、石を作り出す「胆嚢」がある限り、再び石が転がり落ちて急性膵炎を再発するリスクが残ります。そのため、膵炎の炎症が完全に落ち着いたタイミングで、原因となった胆嚢を腹腔鏡手術で摘出していただくことが、根本的な再発予防として強く推奨されます。

受診の目安

「みぞおちから背中にかけて、今まで経験したことがないような激しい痛みが突然あらわれた」「痛みが強すぎて真っ直ぐ立っていられない、体を丸めると少し楽になる」「何度も吐いてしまい、水分もとれない」といった症状がある場合は、急性膵炎が強く疑われます。

特に、前日や直前に大量のお酒を飲んだあとや、脂っこい食事を大量に食べたあとにこれらの症状があらわれた場合は要注意です。急性膵炎は発症から数時間単位で全身状態が急激に悪化し、命に関わる多臓器不全へと進行する可能性があるため、痛みを我慢したり翌日まで様子を見たりせず、ためらわずに救急車を要請するなどして、直ちに医療機関を受診してください。