慢性膵炎(飲酒後の腹痛・嘔吐)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

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慢性膵炎

慢性膵炎(飲酒後の腹痛・嘔吐)|東新宿駅前こばやし消化器内科|

サマリー(時間がない方はこちらをどうぞ)

慢性膵炎は、胃の後ろに位置する膵臓に長期間にわたって持続的な炎症が起こり、正常な細胞が壊れて硬い線維組織に置き換わっていく(線維化する)進行性かつ不可逆性の疾患です。膵臓は食べ物を消化する「膵液」を分泌する外分泌機能と、血糖値を調節する「インスリン」などのホルモンを分泌する内分泌機能という、生命維持に直結する2つの重要な役割を担っています。慢性膵炎が進行すると、これらの機能が徐々に失われ、消化吸収不良による慢性の下痢や体重減少、および糖尿病の発症や悪化を引き起こします。初期の段階では、みぞおちや背中の強い痛みを繰り返すことが特徴ですが、病状が進行して膵臓の細胞が破壊し尽くされると、皮肉なことに痛みは消失していく「燃え尽き(バーンアウト)」と呼ばれる特異な経過をたどります。一度壊れて硬くなった膵臓を元の状態に戻す根治療法は存在しないため、いかに早期に発見し、禁酒・禁煙の徹底と適切な内科的治療によって病気の進行を食い止めるかが最大の鍵となります。

症状について

慢性膵炎の症状は、病気の進行度(代償期、移行期、非代償期)によって劇的に変化するという大きな特徴を持っています。

 

  1. 代償期(初期〜中期)

膵臓の機能がまだ保たれている時期です。脂肪分の多い食事をとったあとや、多量のアルコールを飲んだあとに、みぞおち(心窩部)から左の背中にかけて、突き抜けるような強い痛みがあらわれます。この痛みは数日から数週間続くことがあり、しばしば吐き気や嘔吐を伴います。体を丸めて前かがみになると痛みが少し和らぐ(前屈位で軽減する)という特徴的な姿勢をとることが多くみられます。

 

  1. 移行期

炎症が慢性化し、膵臓の細胞が徐々に壊れ始める時期です。腹痛や背部痛の頻度は減っていきますが、鈍い痛みや不快感が持続するようになります。

 

  1. 非代償期(進行期・バーンアウト期)

膵臓の組織が広範囲にわたって硬く線維化し、機能が完全に失われた状態です。炎症を起こす細胞すら残っていないため、それまで患者さんを苦しめていた激しい腹痛は嘘のように消失します。しかし、ここから深刻な機能不全の症状があらわれます。

・消化吸収不良:脂肪を分解する酵素(リパーゼ)が出なくなるため、脂肪がそのまま便として排泄される「脂肪便(白っぽく、水に浮き、非常に悪臭がする泥状の便)」が大量に出るようになります。どれだけ食べても栄養が吸収されないため、急激な体重減少や深刻な栄養失調に陥ります。

・糖尿病の発症:インスリンを分泌する細胞が破壊されるため、強度の喉の渇き、多尿、全身の倦怠感といった糖尿病の症状が急速にあらわれます(膵性糖尿病)。

病気の概要

膵臓はお腹の深いところ(後腹膜臓器)に位置する長さ15センチほどの細長い臓器です。

慢性膵炎は、この膵臓の中で何らかの理由によって消化酵素(トリプシンなど)が異常に活性化し、自分の膵臓の組織自体を消化してしまう「自己消化」を慢性的に繰り返す病態です。

組織が破壊されると、それを修復する過程で「膵星細胞」という特殊な細胞が活性化し、コラーゲンなどの線維タンパク質を大量に作り出します。これが蓄積することで、本来は柔らかい膵臓がカチカチに硬く縮んでしまう「線維化」が進行します。さらに、膵液の成分が変化してドロドロになり、膵臓の中を走る管(主膵管)の中にカルシウムが沈着して「膵石(すいせき)」と呼ばれる石が多発するようになります。この膵石が管を塞ぐことで、さらに膵液の流れが滞り、内圧が上昇して激しい痛みを引き起こすという悪循環が形成されます。

病気の特徴

慢性膵炎の最大の恐ろしさは「不可逆性」と「発がんリスクの著しい上昇」にあります。

一度線維化して硬くなった膵臓の組織や、死滅した細胞が薬や治療で元通りに再生することはありません。そのため、治療の目標は「治癒」ではなく「進行の停止」と「失われた機能の補充」となります。

また、膵臓に長期間の慢性的な炎症が持続することは、細胞の遺伝子に異常を引き起こす極めて強力な要因となります。慢性膵炎の患者さんは、健康な人と比較して「膵臓がん」を発症するリスクが十数倍から二十倍近く跳ね上がることが疫学的に証明されており、症状が落ち着いたあとも厳格な画像検査による監視(サーベイランス)を生涯にわたって継続することが不可欠です。

原因・背景

慢性膵炎を発症する原因は、性別によって傾向が大きく異なりますが、全体のおよそ6070%は「長期間の過度なアルコール摂取」が原因(アルコール性慢性膵炎)です。

アルコールそのものや、アルコールが肝臓で分解されてできるアセトアルデヒドが膵臓の細胞に直接的な毒性を示すこと、また膵液の中のタンパク質を固まりやすくして膵管を詰まらせることが原因と考えられています。一般的に、日本酒換算で毎日3合以上の飲酒を10年以上にわたって継続すると発症リスクが急激に高まるとされています。

そのほかの原因として以下のものが挙げられます。

・特発性:明らかな原因が特定できないタイプで、女性に多くみられます。遺伝子の変異などが関与していると考えられています。

・自己免疫性膵炎:免疫システムの異常によって自らの膵臓を攻撃してしまう特殊なタイプで、ステロイド治療が劇的に効くという特徴があります。

・その他:副甲状腺機能亢進症などによる高カルシウム血症、脂質異常症(高トリグリセリド血症)、先天的な膵管の形態異常(膵管癒合不全)などが原因となることもあります。

なお、タバコ(喫煙)はアルコールと並んで慢性膵炎の発症リスクを上昇させ、さらに病気の進行(線維化や石の形成)を極めて強く加速させる独立した危険因子であることが明確に証明されています。

検査で分かること

診断および進行度の評価のためには、血液検査だけでなく、複数の画像診断を組み合わせて客観的な証拠を集めることが必須です。

 

・血液・尿検査

代償期(初期)では、血中や尿中のアミラーゼ、リパーゼといった膵臓の酵素の数値が上昇します。しかし、非代償期(進行期)になって膵臓の細胞が壊れ尽くすと、もはや酵素を作り出すことができないため、炎症が起きていてもこれらの数値は「正常」あるいは「異常低値」を示すようになります。また、血糖値やHbA1cの測定によって内分泌機能の低下を評価します。

・腹部超音波(エコー)検査

体に負担をかけずに膵臓の腫れや萎縮、膵石の有無、膵管の拡張などを観察する第一段階の検査です。

・腹部造影CTMRIMRCP)検査

慢性膵炎の確定診断に不可欠です。CTでは、膵臓全体に石灰化(膵石)が散らばっている様子や、膵臓が萎縮してペラペラになっている状態を立体的に評価します。MRCP(磁気共鳴膵胆管造影)では、放射線を使わずに膵管のいびつな拡張や狭窄、数珠つなぎになった変形(数珠状変化)を鮮明に描き出します。

・超音波内視鏡検査(EUS

胃カメラの先端に超音波装置がついた機器を用い、胃や十二指腸の壁越しに至近距離から膵臓を観察します。CTや通常の超音波では捉えきれない、ごく初期の微細な線維化や点状の異常(早期慢性膵炎のサイン)を発見するために最も強力かつ重要な検査です。

治療方針について

治療方針は、病気の進行段階(代償期か非代償期か)によって根本的に異なります。

 

  1. 生活指導(絶対的な前提条件)

原因が何であれ、「完全な禁酒」と「禁煙」が治療の絶対条件です。これを守らなければ、どのような高度な医療を提供しても進行を食い止めることはできず、数年以内に膵臓の機能は完全に失われます。また、食事は膵臓に負担をかけない「低脂肪食」を厳格に守っていただく必要があります。

 

  1. 薬物療法

・代償期の治療:痛みを抑えるために鎮痛薬を使用し、さらに膵液の分泌を抑える薬(タンパク分解酵素阻害薬)や、胃酸を抑える薬(PPIなど)を内服して膵臓を休ませます。

・非代償期の治療:失われた機能を補う「補充療法」が中心となります。消化吸収不良に対しては、大量の「消化酵素薬(パンクレリパーゼなど)」を毎食直後に内服し、脂肪便や栄養失調を防ぎます。糖尿病を発症した場合は、飲み薬ではなく「インスリン注射」による厳密な血糖コントロールが必要となります。

 

  1. 内視鏡的治療・体外衝撃波結石破砕術(ESWL

主膵管に大きな膵石が詰まって激しい痛みを引き起こしている場合、体の外から衝撃波を当てて石を細かく砕く治療(ESWL)や、内視鏡を使って十二指腸から膵管に細い管(ステント)を入れて膵液の流れを確保する治療をおこないます。

 

  1. 外科的治療

内科的・内視鏡的な治療をおこなっても、激しい痛みがコントロールできない場合や、膵管の狭窄が強固な場合には、外科的手術が選択されます。膵管を切り開いて腸と直接つなぎ合わせる手術(膵管空腸吻合術)や、炎症の強い膵臓の頭部をえぐり取る手術(Frey手術など)をおこなうことで、劇的な痛みの改善を図ります。

よくある質問(Q&A)

Q.慢性膵炎は完全に治すことができますか?

A.残念ながら、現在の医学では一度線維化して硬くなった膵臓の組織を元の健康な状態に戻すことはできません。不可逆性の病気です。しかし、早期に発見し、禁酒・禁煙を徹底して適切な治療を継続することで、病気の進行を停止させ、普通の人と変わらない寿命と生活の質を維持することは十分に可能です。

 

Q.痛みがなくなったので、お酒を少し飲んでもいいですか?

A.痛みがなくなったのは「治ったから」ではなく、膵臓の細胞が破壊し尽くされて「痛みを感じる神経や細胞すらなくなった(バーンアウトした)」という極めて危険なサインである可能性が高いです。ここで飲酒を再開すると、残されたわずかな機能も完全に失われ、致命的な栄養失調や糖尿病の悪化、さらには膵臓がんの発生を直接的に招くため、生涯にわたる一滴たりともの禁酒が必須です。

 

Q.早期発見するにはどうすればよいですか?

A.慢性膵炎は初期の段階では一般的な血液検査(アミラーゼなど)やバリウム検査では見逃されることが多々あります。長期間にわたって大量の飲酒歴がある方や、原因不明のみぞおちや背中の痛みを繰り返している方は、消化器内科を受診し、超音波内視鏡(EUS)やMRCPなどの膵臓に特化した精密検査をうけていただくことが最も確実な早期発見への道です。

受診の目安

「脂っこいものを食べたり、お酒を飲んだりした数時間後に、みぞおちから背中にかけて突き抜けるような激しい痛みが起こる」というエピソードを繰り返している場合は、膵臓が悲鳴を上げている強いサインです。

また、痛みがなくても、「油が浮いていて非常に臭い下痢(脂肪便)が大量に出る」「食べているのに体重がどんどん減っていく」「急に糖尿病と言われた、あるいは血糖値のコントロールが急激に悪くなった」という場合は、すでに慢性膵炎が進行し、膵臓の機能が失われ始めている(非代償期)可能性が極めて高い状態です。これらの症状が一つでも当てはまる場合は、自己判断で市販の胃薬などを飲んで様子を見ることは避け、速やかに消化器内科を受診し、客観的な評価をうけてください。