胆管炎・胆嚢炎
胆管炎・胆嚢炎
急性胆管炎および急性胆嚢炎は、肝臓で作られる消化液「胆汁」の通り道である胆道系(胆嚢ならびに胆管)に細菌が感染し、急激な炎症を引き起こす病態です。多くの場合、胆石が胆道の出口や途中に詰まることで胆汁の流れが滞り(うっ滞)、そこに腸内細菌が逆流して増殖することが原因となります。胆嚢炎は右側の肋骨の下の激しい痛みと発熱が特徴であり、胆管炎はこれらに加えて白目や皮膚が黄色くなる「黄疸」を伴うことが特徴です。特に急性胆管炎は、化膿した胆汁の圧力が高まり、細菌や毒素が直接血液中に流れ込んで全身に回る(敗血症)リスクが極めて高く、数時間単位で血圧低下や意識障害を伴う致命的な状態に陥る危険性があります。そのため、これらの症状があらわれた場合は決して自己判断で様子を見ず、直ちに医療機関で客観的な評価と緊急の処置(胆汁を抜くドレナージや手術)をうけていただく必要があります。
胆管炎と胆嚢炎は、解剖学的な発生部位の違いから、あらわれる症状に特徴的な差異があります。
最も特徴的なのは、右の肋骨の下(右季肋部)からみぞおちにかけての激しい持続的な痛みです。炎症を起こして腫れ上がった胆嚢が腹壁に触れるため、右の肋骨の下を深く押された状態で大きく息を吸い込もうとすると、痛みのあまり呼吸が止まってしまう「マーフィー徴候」という特異的な所見があらわれます。これに加えて、38度以上の発熱や吐き気、嘔吐を伴います。ただし、胆嚢は袋状の行き止まりの臓器であるため、通常は黄疸があらわれることはありません。
総胆管という本流の管が塞がれるため、胆汁が血液中に逆流して「黄疸(皮膚や白目の黄染、褐色の尿)」があらわれます。急性胆管炎の典型的な症状は、①右上の激しい腹痛、②悪寒や震え(戦慄)を伴う高熱、③黄疸の3つであり、これを「シャルコーの三徴」と呼びます。
さらに重症化すると、これら3つの症状に加えて、④意識がもうろうとする(意識障害)、⑤血圧が急低下する(ショック状態)という「レイノルズの五徴」があらわれます。これは敗血症性ショックに陥っている極めて危険なサインです。
肝臓で1日に約600〜800ml作られる胆汁は、左右の肝管から総肝管を経て総胆管へと流れ、一部は胆嚢に一時的に貯蔵・濃縮されます。その後、食事の刺激で胆嚢が収縮し、総胆管を通って十二指腸の出口(ファーター乳頭)から排出されます。
本来、胆道の中は無菌状態に保たれています。しかし、何らかの物理的な障害物によってこのスムーズな流れがせき止められると、川の水が淀んで腐るのと同じように、腸から逆流してきた細菌(大腸菌やクレブシエラなどの腸内細菌)が滞留した胆汁の中で爆発的に増殖します。
胆嚢の出口(胆嚢管)が塞がって胆嚢の内部で感染と炎症が起こるのが「急性胆嚢炎」、総胆管が塞がって胆管の内部で感染が起こるのが「急性胆管炎」です。これらは単独で起こることもありますが、同時に併発することも少なくありません。
急性胆管炎の最大の特徴であり恐ろしい点は、解剖学的な構造上、「菌血症(血液中に細菌が入り込むこと)」を極めて起こしやすいことです。肝臓内の細かい胆管のネットワークは、肝臓の毛細血管と隣り合わせになっています。胆管が塞がって内部の圧力(胆道内圧)が上昇すると、化膿した胆汁がこの壁を容易に突破し、細菌とその毒素が直接血流に乗って全身にばらまかれます。これにより、数時間から半日という驚異的なスピードで多臓器不全へと進行します。
一方、急性胆嚢炎の特徴は、胆嚢の壁に血液を送る動脈(胆嚢動脈)が細い一本道であることです。胆嚢がパンパンに腫れ上がると、この動脈が押しつぶされて血流が途絶え、胆嚢の壁の細胞が死滅(壊死)します。放置すると胆嚢が破裂(穿孔)し、化膿した胆汁がお腹全体に散らばって致死的な汎発性腹膜炎を引き起こす危険性があります。
急性胆管炎および急性胆嚢炎の直接的な原因の約80〜90%は「胆石」です。
胆嚢結石が胆嚢の出口にカポッとはまり込んで抜けなくなることで急性胆嚢炎が発症します。また、その石が総胆管に転がり落ちて十二指腸の出口に詰まることで急性胆管炎が発症します。
胆石以外の原因としては、胆管がん、胆嚢がん、膵がんなどの悪性腫瘍が管を外側から圧迫したり内側で塞いだりすること(悪性胆道狭窄)が挙げられます。がんによる閉塞は徐々に進行するため、最初は痛みを伴わない黄疸(無痛性黄疸)として発見され、そこに細菌感染が加わることで急激に胆管炎を発症します。
その他の背景として、過去の胃の切除手術や胆道の手術によって腸内細菌が逆流しやすい構造になっている方や、内視鏡検査(ERCP)のあとの偶発症として発症するケースもあります。
診断の確定、重症度の判定、ならびに原因(石かがんか)の特定のため、以下の検査を迅速におこないます。
・血液検査および血液培養検査
白血球数やCRPの著しい上昇から強い炎症を確認します。AST、ALT、ALP、γ-GTPといった肝胆道系酵素やビリルビンが異常な高値を示し、胆汁のうっ滞と肝臓へのダメージを評価します。さらに、敗血症の兆候を捉えるため血小板数や腎機能、凝固機能を調べるとともに、血液の中にどのような細菌が入り込んでいるかを特定するための血液培養検査を必ずおこないます。
・腹部超音波(エコー)検査
体への負担が少なく、最初におこなうべき極めて有用な検査です。急性胆嚢炎では、胆嚢がパンパンに腫れ上がり、壁が数ミリ以上に分厚くなっている様子(壁肥厚)や、周囲に炎症の液体が溜まっている所見、および原因となる胆嚢結石を正確に捉えることができます。胆管炎では、総胆管が異常に太く拡張している様子を確認します。
・腹部造影CT検査
炎症の範囲、胆嚢の壊死や穿孔の有無、周囲の臓器(肝臓や腸など)への波及を客観的に立体評価します。また、総胆管結石の正確な位置や、胆管がんなどの悪性腫瘍が隠れていないかを診断するために不可欠です。
急性胆管炎および急性胆嚢炎の治療は、いずれも「感染のコントロール(抗菌薬)」と「物理的な詰まりの解除(ドレナージや手術)」という二本柱で構成されます。
重症度にかかわらず、初期治療として絶食・絶飲とし、点滴による水分補給と強力な抗菌薬の静脈内投与を開始します。
中等症から重症の場合は、抗菌薬だけでは絶対に治癒しないため、物理的に詰まっている化膿した胆汁を体外に逃がす「胆道ドレナージ」が一刻も早く必要となります。第一選択は内視鏡を用いた治療(ERCP)です。口から十二指腸カメラを入れ、出口から細いチューブを胆管に挿入して膿を抜く(ENBDなど)、あるいは出口を切開して詰まっている石を取り除く処置をおこないます。胃の手術後などで内視鏡が届かない場合は、体の外(右脇腹)から肝臓越しに針を刺してチューブを入れる経皮的治療(PTBD)がおこなわれます。
同じく絶食と抗菌薬の点滴が基本となります。
炎症を根本から断ち切るための最も推奨される治療は、発症から早期(数日以内)におこなう「腹腔鏡下胆嚢摘出術」です。炎症の火元となっている胆嚢を、原因である胆石ごとすべて外科的に切除します。
もし、患者さんが高齢であったり、重い心臓病などの持病があったりして全身麻酔での手術に耐えられないと判断された場合は、超音波を見ながら局所麻酔で右脇腹から胆嚢に直接チューブを刺し、膿を外に出す処置(経皮経肝胆嚢ドレナージ:PTGBD)をおこない、炎症が落ち着くのを待つ方法が選択されることもあります。
Q.胆管炎と胆嚢炎はどう違うのですか?
A.発生している「場所」が異なります。胆嚢炎は胆汁を一時的に貯める「袋」の炎症であり、右上の腹痛が主症状です。胆管炎は胆汁が流れる「本流の管」の炎症であり、腹痛に加えて黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)があらわれるのが大きな違いです。解剖学的に繋がっているため、両方が同時に起こることもあります。
Q.抗生物質(抗菌薬)の点滴だけで治すことはできるでしょうか?
A.軽症であれば抗菌薬の点滴と絶食だけで炎症が一旦落ち着くこともあります。しかし、根本的な原因である「石の詰まり」が解除されていない限り、極めて高い確率で数日から数週間以内に再発し、次はより重症化する危険性があります。そのため、内視鏡による石の除去や、胆嚢を摘出する手術といった根本的な介入をあわせておこなうことが不可欠です。
Q.手術をせずに放置するとどうなりますか?
A.急性胆管炎を放置すると、数日で敗血症から多臓器不全に至り命に関わります。急性胆嚢炎を放置すると、胆嚢が腐って穴があき(穿孔)、化膿した胆汁がお腹の中に漏れ出して汎発性腹膜炎を引き起こす恐れがあります。いずれも放置して自然に治る病態ではないため、迅速な医学的介入が必要です。
「右の肋骨の下からみぞおちにかけて、我慢できないほどの激しい痛みが突然あらわれた」「息を深く吸い込むと右上の痛みが強くなる」「激痛に加えて、悪寒を伴う38度以上の高熱が出た」という場合は、急性胆嚢炎や急性胆管炎の疑いが極めて高い状態です。
さらに、「白目や皮膚が黄色い」「尿の色が急に濃い茶褐色になった」という黄疸の症状が加わっている場合や、脈が異常に速く、意識がぼんやりしている場合は、すでに敗血症性ショック(命に関わる緊急事態)に陥りかけている極めて危険なサインです。決して自己判断で痛み止めなどを飲んで様子を見ることなく、夜間や休日であっても直ちに救急車を要請し、高度な内視鏡治療や緊急手術ができる医療機関を速やかに受診してください。