【タイトル】
世代で変わるピロリ菌感染率―あなたは調べたことがありますか?
【本文】
胃がんの最大の原因とされるピロリ菌(Helicobacter pylori)。日本人の感染率は、実は世代によって大きく異なります。ご自身がどの程度のリスクを抱えているのか、まずは国内のデータから見てみましょう。
世代によってこれほど違う、日本人の感染率
2022年に発表された住民登録ベースの疫学調査(Journal of Gastroenterology, 2022)では、日本全体の感染率は40.0%と報告されています。農村部では49.4%、都市部では32.3〜35.6%と地域差もありますが、若い世代ではこの地域差はほとんど見られなくなっています。
年代別に見ると、2008年に行われた健診データ(21,144名、Journal of Gastroenterology and Hepatology, 2014)では、次のような感染率が報告されています。
- 30歳代:18.0%
- 40歳代:22.9%
- 50歳代:37.4%
- 60歳代:46.1%
さらに世代をさかのぼると、1950年より前に生まれた世代では感染率が80〜90%に達する一方、1990年代生まれでは10%以下、2000年以降生まれでは2%未満まで低下しているとされています(Gastric Cancer, 2017)。これは、戦中・戦後の衛生環境が悪かった時代に幼少期を過ごした世代ほど、口移しや井戸水などを介して感染する機会が多かったためと考えられています。
感染していても、症状はほとんどありません
ピロリ菌の感染は、多くの場合幼少期(5歳未満が多い)に成立し、除菌治療(薬でピロリ菌を退治する治療)をしない限り生涯にわたって持続します。感染していても自覚症状がないことがほとんどで、ご自身では気づけません。
数理モデルを用いた解析(Canadian Journal of Infectious Diseases and Medical Microbiology, 2019)では、日本人の感染力(新たに感染する力)は第二次世界大戦前後から一貫して低下し続けており、2018年時点で40歳の血清陽性率は22%、2030年には13%、2050年には5%まで下がると予測されています。感染率は着実に下がっているとはいえ、現時点で40歳前後の方には、依然として一定の割合で感染者が含まれているということです。
胃カメラでピロリ菌の有無を確認する意味
ピロリ菌に感染すると、胃の粘膜(内側の表面)が慢性的な炎症によって徐々に薄く、硬くなっていく「萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)」という変化が起こります。胃カメラでは、この萎縮性変化の有無やその範囲を直接観察することで、ピロリ菌に感染しているかどうか、また感染がどの程度進行しているかを確認することができます。
ピロリ菌の感染を調べる方法には、血液検査や便検査、尿素呼気試験などいくつかの種類がありますが、実は保険診療でピロリ菌の除菌治療を行うためには、胃カメラでの観察が必須となっています。これは、血液検査や便検査だけでは「偽陽性(本当は感染していないのに、検査結果は陽性と出てしまうこと)」が一定の割合で起こりうるためです。胃カメラで実際の胃の状態を確認したうえで除菌治療に進むことで、こうした判定のズレを防ぐ意味合いがあります。
まだ胃カメラの検査を受けたことがない方は、ぜひ一度、検査を受ける機会を持っていただくことをおすすめします。ピロリ菌の感染自体に症状はありませんが、胸焼けや胃の痛みといった別の症状の原因を調べるために胃カメラを受けたところ、偶然ピロリ菌への感染が疑われるケースも少なくありません。
ピロリ菌に感染していると胃がんの罹患率(かかりやすさ)が高くなることが分かっているため、ご自身が感染しているかどうかを早い段階で確認しておくことには、大きな意味があります。実際に、早期胃がんを内視鏡で切除した患者さんを対象に除菌の効果を調べた国内のランダム化比較試験(治療の効果を公平に比較するため、対象者を無作為に振り分けて行う試験)でも、除菌を行った群では新たな胃がんの発生が有意に少なかったことが示されており(Fukase K, et al. Lancet. 2008;372(9636):392-397、オッズ比0.353)、除菌によって胃がんの発生そのものを抑えられる可能性が示されています。
感染の有無だけで、生涯の胃がんリスクにも大きな差が生じることが、都道府県のがん登録データを用いたシミュレーション研究(International Journal of Cancer, 2022)からも示されています。
- ピロリ菌感染者:男性17.0%/女性7.7%
- ピロリ菌非感染者:男性1.0%/女性0.5%
感染の有無によって、生涯の胃がん累積罹患リスク(一生のうちに胃がんと診断される確率)に10倍以上の差が生じるという結果です。これまで一度もピロリ菌の検査を受けたことがない方、健診で「要精密検査」と言われたまま放置している方は、この機会に胃カメラでの確認を検討してみてください。
参考文献
- Ito M, Sugiyama A, Mino M, et al. Prevalence of Helicobacter pylori infection in the general population evaluated by a resident-register-based epidemiological study. J Gastroenterol. 2022;57(8):540-546.
- Hirayama Y, et al. Prevalence of Helicobacter pylori infection with healthy subjects in Japan. J Gastroenterol Hepatol. 2014;29:16-19.
- Inoue M. Changing epidemiology of Helicobacter pylori in Japan. Gastric Cancer. 2017;20(Suppl 1):3-7.
- Kayano T, Lee KD, Nishiura H. Estimating the Force of Infection with Helicobacter pylori in Japan. Can J Infect Dis Med Microbiol. 2019.
- Fukase K, Kato M, Kikuchi S, et al. Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled trial. Lancet. 2008;372(9636):392-397.
- Kawai S, Wang C, Lin Y, Sasakabe T, Okuda M, Kikuchi S. Lifetime incidence risk for gastric cancer in the Helicobacter pylori-infected and uninfected population in Japan: A Monte Carlo simulation study. Int J Cancer. 2022;150(1):18-27.

