目次
「胃カメラで胃がんが見つかったけれど、内視鏡で切除できた」—そんな話を身近な方から聞いたことはありませんか?かつては「胃がん=手術」というイメージが一般的でしたが、現在では早期に発見された胃がんの多くが、開腹手術をせずに内視鏡治療で切除できる時代になっています。
その背景には、人間ドックや健診での胃カメラ受診が普及し、早期発見の機会が増えたこと、そして内視鏡治療の技術が大きく進歩したことがあります。このコラムでは、胃がんの種類と内視鏡治療の最新エビデンスについて、2026年に発表された論文をもとにご紹介します。
胃がんには「分化型」と「未分化型」がある
胃がんは顕微鏡で見たときの細胞の形によって、大きく分化型と未分化型に分類されます。
- 分化型胃がん:顕微鏡で見ると正常の胃粘膜に似た構造を保っているがん。胃がん全体の中では頻度が高く、ピロリ菌による慢性胃炎・腸上皮化生を背景に発生することが多い
- 未分化型胃がん:がん細胞が固まりを作らず、バラバラに広がる性質を持つがん。低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌などが含まれる。進行癌になると予後不良になりやすいとされるが、早期に発見されれば内視鏡治療の対象となるケースがある
未分化型胃がんとピロリ菌の関係
胃がんの最大のリスク因子はピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)感染であり、特に分化型胃がんとの関連が強いとされています。一方、未分化型胃がん、特に印環細胞癌は、ピロリ菌に感染したことがない方にも発症することがある点が特徴です。ピロリ菌陰性胃がんは全胃がんのおよそ1%とされていますが、その中では未分化型(印環細胞癌)の割合が高いことが報告されています(Horiuchi et al. Gastroenterol Endosc, 2016)。
つまり、「ピロリ菌がいないから胃がんにならない」とは言えません。胃の症状がある方、あるいは症状がなくても定期的な胃カメラによるチェックが重要です。
未分化型早期胃がんのESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)10年成績
2026年、国際的な消化器病学専門誌「Gastroenterology」に、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)による重要な論文が掲載されました(Abe et al. Gastroenterology, 2026)。
この研究(JCOG1009/1010)では、潰瘍のない2cm以下の未分化型早期胃がんに対してESDを行った患者さんを、10年以上にわたって追跡調査しました。
研究のポイント
- 対象:337例にESDを実施、うち275例が未分化型早期胃がん(UD-EGC)と病理確認
- 10年全生存率:96.2%(95%CI:93.1〜97.9%)
- 10年無再発生存率:95.7%(95%CI:92.4〜97.6%)
- 根治切除後の転移再発:10年間で1例のみ
- 胃温存:定期的な内視鏡フォローと追加ESDにより、多くの症例で胃を温存
この結果は、適切な条件を満たした未分化型早期胃がんに対するESDが10年にわたって良好な生存成績を維持できることを示した、世界初の前向き10年追跡データです。日本の胃癌治療ガイドラインがESDを標準治療として推奨していることの根拠を、さらに強固にする結果といえます。
内視鏡治療が広がることの意味
ESDをはじめとする内視鏡治療の技術は年々進歩し、かつては手術しか選択肢がなかった病変も、内視鏡で切除できるケースが増えています。胃がんだけでなく、食道がん・大腸がんにおいても同様の傾向があります。
内視鏡治療の最大のメリットは、お腹を切らずに済むことです。入院期間が短く、術後の体への負担も少なく、胃や大腸を温存できることで術後のQOL(生活の質)も保たれます。こうした治療を可能にするのが、早期発見です。
当院の内視鏡診断へのこだわり
当院院長は東京慈恵会医科大学内視鏡医学講座において、共焦点レーザー内視鏡(confocal laser endomicroscopy:CLE)をはじめとする高精度内視鏡診断の研究に携わってきました(Kobayashi M, et al. Endoscopy. 2016)。こうした先端的な内視鏡診断の知見をもとに、当院では現在、大学病院の精査内視鏡として使用されている拡大内視鏡スコープを導入しており、通常の内視鏡では捉えにくい微細な粘膜の変化も詳細に評価します。
がんが見つかった後も、当院がサポートします
万が一、検査でがんが疑われた場合、「どこの病院に行けばいいのか」「どの先生に診てもらえばいいのか」と不安になる方は少なくありません。
当院は、都内の大学病院をはじめとする複数の基幹病院と医療連携を結んでいます。仕事帰りにお越しになる方も多い当院だからこそ、新宿エリアだけでなく、患者さんの生活圏に合わせたさまざまなエリアの基幹病院と連携しています。
内視鏡治療の適応については、患者さんとご相談のうえ、最も適切な医療機関へご紹介します。「診断だけして終わり」ではなく、その後の治療・受診先まで一緒に考えることが、当院のこだわりです。
ピロリ菌除菌後も、定期的な胃カメラを
ピロリ菌に感染したことがある方は、除菌に成功した後も胃がんのリスクがゼロになるわけではありません。除菌後も年1回の定期的な胃カメラによる経過観察が推奨されています。また前述のとおり、ピロリ菌感染歴がない方でも未分化型胃がんが発症することがあります。胃の不快感・もたれ・食欲低下などの症状がある方はもちろん、症状がない方も、ぜひ一度受診してください。内視鏡治療の適応についてのご相談も含め、お気軽にお越しください。
参考文献
・ Abe S, et al. Ten-Year Follow-Up After Endoscopic Submucosal Dissection for Clinical T1a Undifferentiated-Type Early Gastric Cancer ≤2 cm Without Ulceration in a Nonrandomized, Single-Arm Confirmatory Trial (JCOG1009/1010). Gastroenterology 2026. DOI: 10.1053/j.gastro.2026.06.028
・ Horiuchi Y, et al. ヘリコバクター・ピロリ菌陰性胃癌:その特徴と内視鏡所見. Gastroenterological Endoscopy 2016;58(9):1492.
・ Kobayashi M, Neumann H, Hino S, Vieth M, Abe S, Nakai Y, Nakajima K, Kiesslich R, Hirooka S, Sumiyama K. Influence of reviewers’ clinical backgrounds on interpretation of confocal laser endomicroscopy findings. Endoscopy. 2016;48(6):521-9. doi: 10.1055/s-0042-101408. PMID: 26862845.

